2012年11月19日

三浦崇典氏「二番煎じ三番煎じの本ばかり、同じ著者の同じような本ばかり」

 私が、天狼院書店の三浦崇典氏の名前を知ったのは、'12/11/01号『新文化』の下記コピーのついた記事を読んだ時だ。
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 こんな働き方をいつまで続けるのか?
 【鼎談】 作家・出版・書店人は "主体性" 取り戻せ!

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(鳴海の紹介記事はこちら

 『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』の著者であり、マトマ出版の社長でもある木暮太一氏、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』をプロデュースした星海社新書編集長の柿内芳文氏との対談記事だった。強烈なメッセージに心を打たれるとともに、まだまだ本づくりにかける情熱を持った人がいるんだ・・・と期待感が満ち溢れて来るのを感じながら読んだ。しかしこの記事での三浦氏に対する印象はそれほど強いものではなかった。

 しかし、とある記事(『文化通信』2012/11/19号)を見て、一気に応援したくなった。
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この業界を救うための唯一の方法
新しい書店の形を考える⑤

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という記事である("⑤" とあるが、残念ながら④、③、②、①の存在については記憶がない)。

 何とも気持ちいい「書店界のゴッドファーザー」と呼ばれる人物との会話(天狼院書店の記事には、三浦氏がこの人物が誰か特定できないよう気遣っている様子が書かれていた)。気に入った部分をピックアップしよう。

三浦氏
「この業界を良くするにはどうすればいいでしょうか。」

"ゴッドファーザー" 曰く・・・
「出版点数を減らせばいい。くだらない本が多すぎる」

 私もそう思う。記事で三浦氏は「(出版点数が多すぎることに)売る側も、作る側ももう気づいているはずだ」と言うが、私をはじめ読者だってとうの昔に気づいている・・・この出版業界の異常さに。

 10年ほど前、私がネット書店の立ち上げに携わった時に驚いたことは、出版社が自社の在庫を単品管理できていないこと。そして、ユーザーの注文(例えば「お取り寄せ」という注文)に対して、責任を持ってデリバリーするという感覚が麻痺して、一方的にキャンセルしても構わないという雰囲気があった。

 書店が発注しても、満数納品されないのが当たり前の業界(当時)。私もこの感覚に慣れようと必至だった・・・でもやっぱりおかしい!日々葛藤であった。Amazonの上陸や電子書籍の普及は、出版業界にとっては良い刺激になり、昨今ではかなり改善してきたように思う。ただ記事で三浦氏が述べる通り

三浦氏
「現状、二番煎じ三番煎じの本ばかり、同じ著者の同じような本ばかりが並んでいる」

肝心なコンテンツがこれである。作り手側の意識がeasy過ぎるのではないだろうか!? ただ最初に触れた、木暮氏や柿内氏のような方々が増えてくれば期待が持てる。三浦氏は出版点数を減らすことによる効果をこのように述べている。

三浦氏
「出版点数を減らすと、どういうことになるだろうか。書店の側から考えると、新刊入れ替え、および返品の業務が激減することとなり、書店の利益を圧縮する人件費を圧縮できる。また、ひとつひとつの本が棚に残る可能性が高くなり、重版率も高くなる。書店の方では雑務が減るので、積極的に仕掛ける時間ができるようになる。」

「出版社の営業も少ない点数を案内することができるようになるために、負担も少なくなる。もちろん、編集者は例えば年間10冊のノルマが5冊に減れば、1冊にかける時間が多くなり、本の完成度が高まる。このサイクルに持っていければ、重版率が上がり、返品率が下がる。」

 返品率が下がれば当然、出版社としては取次(卸)からの入金が増え、資金繰りも楽になる。返品の穴埋めをするために新刊を出すという発想自体がおかしいのである。

三浦氏はこう続ける。

三浦氏
「出版社は自分の得意分野の本を伸ばすことに集中せざるを得なくなる。そうしなければ、競争力を維持できる本を、そもそも作れなくなるからだ。そんな理想論、できるはずはない。そう思われるかも知れない。けれども、実際にこの姿勢を貫いている出版社がある。」

「サンクチュアリ出版である。ここは月の出版点数は1冊ほどで、なので編集に注力することができ、同時に営業も少ない本に集中することができる。1冊の本を丁寧に作り、丁寧に売り伸ばすという、理想の形が、この出版社ではできている。それは恐るべき重版率に表れている。」
(重版率がどれ位なのか数字が明記されていなかったのが残念!)

 例えば現在のサンクチュアリ出版の売れ筋本はこれである。
4861139716自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと (Sanctuary books)
四角大輔
サンクチュアリ出版 2012-07-12

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 現在、TSUTAYAランキング【第4位】にランクイン中である。ただこの出版社もトラブルを起こしたことがある。2009年3月に発売された「最後のパレード」という作品の著者である中村克氏の盗作疑惑である。真偽のほどは私には分からないが、ここに詳しい経緯が紹介されている(かなり辛辣な文章が掲載されているこれが100%事実かどうか私には判断つきかねる)。

 もし事実だとすれば著者はもちろんのこと、発行元の出版社が責められても仕方ないことかも知れない。ただこれは "過去" のこと。私はこの経験を糧にしてかどうかはわからないが、質の高い本づくりをしている "現在" のサンクチュアリ出版の姿勢を評価したいし、読者として応援したいと心から思う。

※サンクチュアリ出版webはこちら
なんとトップページには「本を読まない人たちのための出版社」とあり独自路線を感じる!

三浦氏は出版社に対して警鐘を鳴らす。

三浦氏
「もっともこの戦略を遂行するには編集と営業の両方の精度が問われる。外せばダメージも大きい。しかし、この業界はそろそろそのような緊張感を持つ必要があるのではないだろうか。この業界を救う唯一の方法は、出版点数を減らし、紙の本の価値を高めることにあると思う。本当にほしい本ならば、価格が2000円を超えても、お客様は購入してくれるのだ。『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は本体2800円、『ワーク・シフト』(プレジデント社)は2000円の本である。しかし、これらはベストセラーとなっている。」

◆価格が2000円を超えているベストセラー例
4492532706ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
楠木 建
東洋経済新報社 2010-04-23

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4833420163ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン 池村 千秋
プレジデント社 2012-07-28

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 価格が高くても長く売れ続ける本。こんな本を出版社にはたくさん生み出して欲しいし、書店は良書をしっかり見極めて、読者に良書をおススメして欲しい。そう願うのは私だけだろうか。

 私は一人の読者として、今後も出版業界に対する思いを訴え続けていくだろう(たとえ、私が著者としてデビューすることにマイナスとなったとしても)。だって、easyな本を書く気はないし、仮にその夢が実現したとしても、価値を判断できる読者以外に読んでもらうことに何の魅力も感じないから・・・

 現実問題として "売れなければ何も始まらない" のは重々承知している。きっと私に限らず、著者やその予備軍の人達が抱えるているジレンマなのだろう。それにしてもこの問題を解決する突破口を見つけ出すのは難しそうだ。

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posted by 鳴海寿俊 at 00:00| Comment(0) | 応援したいキーパーソン | 更新情報をチェックする
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