2014年11月01日

『「本屋」は死なない』 廃れていない書店員のプロ根性

410331351X「本屋」は死なない
石橋 毅史
新潮社 2011-10

by G-Tools


 2011年発行の本書。当時、業界では話題になっていたようで、私も知人ブログでその存在を知り購入した。まず抱いたのはタイトルに対する " 嫌悪感 " 。アマゾンなどのネット小売の台頭に、電子書籍化の動き。紙の本を扱う 「本屋」 は決してゼロにはならないだろうが、 " 負け犬の遠吠え " にしか聞こえない・・・ 若者の " 本離れ " については、まるで【客】が悪いと言わんばかりの論調、おまけに国がもっと読書振興策を強化すべきという他力本願な主張まで── 摩訶不思議な業界だなと思った。

 ビジネス書に関して言えば、商品価値は明らかに劣化しているように思う。それは3年前も今も変わらない。もちろん良書はあるが、それ以外が酷過ぎる。確かに、安易な二番煎じ・三番煎じ本を出している作り手の問題はある。しかし、新刊を取っ替え引っ替え並べて、読者を煽るようにして売る 「本屋」 に対しても、私は良い印象を持っていなかった。読者からお金を貰っている(奪っている)のは 「本屋」 なのだ。

客から貴重なお金と(読む)時間を奪っておいて
抜けぬけと 「本屋は死なない」 だと!?


 出版業界における構造的な問題を解決するのに、数人の書店員を取り上げたところでどうなる!? 身内でやってくれ! なぜ 「本屋」 の貴重なスペースに " 身内論 " をテーマにした本を置くのか? 他に売るべき本はないのか? イライラしてきて途中で読むのを止めた。こんな感じだった、1回目に読んだ時は・・・。

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 本書の価値を理解したのは、恥ずかしながら最近のこと。きっかけはブログの方向性の転換だった。ビジネス書を読みあさっては読んだ本の内容を紹介するというスタイルから、「ビジネス書」 自体について物申すスタイル  に変えたのだ。もともと書評数を競う方針には興味はなかったし、間接的に出版業界に携わっているから、『新文化』 や 『文化通信』 などの業界誌には目を通しては、気になる記事を紹介をしていた。でも、ケチをつけるだけではネガティブな気がして、何か前向きな提案できないものか・・・ そう考えていた。

 読む本も変わってきた。まずは自分以外の読者がどう考えているかを知るために、【読書術】 に関する本を読みあさることにした。たとえば以下の本からは、多岐に渡る本のジャンル分けとは違った、より本質的な分類として 「知的消費」 と 「知的生産」 という捉え方を知り、正直感動した。

インテリジェンス読書術 年3000冊読破する私の方法 (講談社+α新書)インテリジェンス読書術 年3000冊読破する私の方法 (講談社+α新書)
中島 孝志

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 読書の真髄とは、遊びや趣味、たんなる知識・情報収集などの知的満足=知的消費でよしとすることではなく、そこから仕事のヒントやアイデアが湧き、人生への教訓などを具体的に創造する「知的生産」の場にすることにこそある (p19)

 私が1回目に 『「本屋」は死なない』 を読んだ時やその他の " 紙の本の価値 " 云々を述べている論評に対して不快感を感じるのは、書き手がイメージしている本のジャンルと読み手がイメージしているジャンルが違うからではないか?

こんな " 大人な " 発想ができるようになったのは収穫だった。
(ビジネス書ばっかり読んでいても頭でっかちになってしまうよね・・・)

冒頭述べた、若者の " 本離れ " について言えば、確かに文学作品はもっと読んだ方がいいよね、国がもっとそれを後押しする施策を打ってもいいよね・・・ みたいな考え方が自然に出てきた。一方、二番煎じ・三番煎じ本について言えば、紙の本として買うには物足りないが、多少観点も違うし新しい情報も加わっているから、割安で場所を取らない電子書籍でなら読んでみたいよね・・・ みたいな発想も出てくる。

こういう幅広い視点で考えられるようになってはじめて

「本屋」 は紙の本を売ることにこだわらずに
読者(客)にとって良いモノ・コト・サービスを提供すべきではないか?


という意見を言う資格がある。私のこのような心境の変化もありつつ、2回目に読んだ 『「本屋」は死なない』 は大変勉強になる " 深い " 本となった。

 著者は石橋毅史氏。フリーランスのライターという肩書きだが、元々 『新文化』 の編集長だった人物ということは、今回初めて認識した(それだけ1回目はテキトーに読んでいたということなのだが)。石橋氏の 「本屋」 に対する価値観が伝わるフレーズをいくつか紹介する。

 彼女のように、書店が次つぎと消え、あるいは顔色を失ってゆくいまの状況に少しでも抗い、「本」を良いかたちで届けようとそれぞれの居場所で頑張っている人に、僕はどうしても肩入れしてしまうのである。あなたはすごく大事なことをしている、これから先もっと必要になる人だ、と言いたいのだ。 (p44-45)

 全国あちこちに支店を出す小売業者はたいてい出店だけでなく閉店もする。収益が見合わなくなると店を畳んで新たな出店先を探す。それをスクラップ&ビルド戦略が功を奏したなどと威張る。スクラップ&ビルド。そういう言葉を使って恥じない態度と、本屋が一冊の「本」を手渡す行為はどうしても相いれないと僕には思える。 (p213)

 これから本屋はどうなってゆくのだろう、という関心が常にあった。本がなければ本屋も成り立たないというのに、「本」そのものの未来より、「本屋」のほうが気になっていたのだ。 (p263)

 石橋氏は、画一的で " 顔の見えない書店 " に対しては否定的ではあるが、全体的には 「本屋」 を肯定的に捉えているように思う。応援したい・・・ という気持ちもひしひしと伝わってくる。石橋氏は本書を " 個人的な見聞録 " と述べており、出版業界に携わっていて本書で紹介されている書店や書店員のことを知っている読者なら、非常に楽しめる内容であろう。しかし、私は紹介されている書店をひとつも知らなかった・・・ だから楽しめなかったか? というとそうではない。中でも2人の書店員には引かれるものがあった。

 1人は、元さわや書店の 伊藤清彦 氏 である。

" これから売れる本 " を見極める眼力の鋭さで知られた書店員だったという伊藤氏について、石橋氏は 「独自のベストセラーを連発する派手さ、豊富な読書量 を下地に新しい書き手を発掘しつづける貪欲さ、品薄の本を独占的に入手する裏技の豊富さ、郷土関連本もよそでは見られないほど魅力的に表現する売場の構成力」 を評価している。

 私が着目したのは 「豊富な読書量」 の部分である。店内には傲慢とも思えるほどの惹句を書いたPOPがあちこちに立っており、石橋氏は 「作品の出来の良し悪しを判断する力にかなりの自信がなければ書けるコピーではない」 と述べている。たとえばこんな感じである。

【本書を今年上半期ナンバーワンのミステリに推す】
【警察小説の史上最高傑作が出た】


そして、この伊藤氏ですら一目置いているのが、同じさわや書店の 田口幹人 氏 である。田口氏についてはこんな風に紹介されている。

 多くの書店員は、「この本はよかった」「面白かった」というまでが限界で、それは誠実な態度のあらわれともいえる。しかし、この見栄を切れるかどうかの差は、じつは大きい。

「あいつが選ぶ本と、他の書店員が選ぶ本は違うのさ。たとえ同じ本を選んだとしても、違う」(中略)

「小説ひとつとっても多くの書店員はせいぜい千冊から二千冊、ヘタしたら数百冊かそれ以下の読書しか積み重なっていない。田口は、数千どころか万単位の読書体験から 『安政五年の大脱走』 に目をかけている(中略)」

田口は時代小説コーナーの担当となる前後に、新たに約六百冊の時代小説を読んだという。

「押さえておくべき作家の代表作を見つけないと棚はつくれないし、時代小説全体の流れにおける、その作家の位置も見えない。代表作を探すとき、過去に一番売れたとか賞を獲ったというのは参考にならないです。自分で読んでいって、ここがこの作家の真髄だ、と自分で見つけないと棚はできない。拾い読みや、いわゆる速読術みたいなのも無駄です。ちゃんと、通して読むしかありません。読み慣れているから普通の人よりは早いと思いますが、時間はかかります」(中略)

「いちばん集中できた時期で、月に九十冊でしょうか。遅番の日に朝三時半に起きて出勤までに三冊読む、というのを続けるわけです。もちろんこの時期、他のジャンルの本はほとんど読めませんでした。魚屋が並べてる魚の味やおいしい食べ方を説明できなくてはいけないのと、基本的には同じだと考えています。(中略)」 (p139-140)

 なんというプロ根性だろうか。ここまでしている書店員がいたら、ネットで買わずに通いたくなる。書店員の方には、アマゾンがどう、電子書籍がどうとかの前にまずはこの基本姿勢に立ち返って欲しい。 「本なんて読む時間が取れない」 なんて言う人がいたら、まずタイムマネジメントや業務改善の本を読んでビジネスパーソンとしてのスキルを磨きつつ、書店員としての意識改革を図って欲しい。

もう1人、共感を覚えた書店員がいる。ひぐらし文庫原田真弓氏 である。 ひぐらし文庫は、リブロなどを経て原田氏が構えた 売場面積5坪の東京・雑司ヶ谷にある書店。古書、新刊、雑貨などを組み合わせて販売しているという。私は原田氏の書店員らしからぬ、時代感覚のようなものに感心した。

 本屋のひとってみんな、この本は面白いですよ、って、内容の話をするじゃないですか。インターネット上でもみんなそれを語っているし、おすすめの本は、と雑誌で聞かれたりもして。これを続けている限り、本屋が本を売る理由って、どんどん弱くなっていっちゃうと思うんです。

ガワの部分、そこを含めて本を語ることを意識しないといけないんじゃないか。紙を束ねていて、文字の美しさとか表紙のデザインがあって、手触りや重さがあって、そういう製本されたモノとして紹介する。文章の素晴らしさはもちろん重要なんだけど、製本された状態をひとつの総合芸術として紹介しなきゃいけないんです、私たち本屋は。

中身だけでいいっていう人は、これから絶対に増えると思う。むしろ本読みの人のほうが、電子で読めばいいものは何か、自分なりの基準がすぐにできるんじゃないかな。上巻があとこれくらいで読み終わるっていうときに、下巻も鞄に入れて出かけるかどうか、けっこう迷うでしょ。で、下巻も持って出かけたんだけど結局は読む時間がされなかったりとか。そういう経験が重なれば、絶対にiPadは便利ですよ。iPadじゃなくても、これからはどんどん進化するから。

でも、紙でつくった製本のほうも絶対に必要なんです。とくに普段からそれほどたくさん本を読むわけじゃない人にとっては、手触りとかボリューム感を伴う製本の状態のほうが、作品のイメージを得やすい。そういうことをひっくるめて本だっていうことを、まずは本屋が、もういちど意識して伝えなきゃいけない。

紙の本がなくなるわけじゃないけど、紙の本が今までどおり残る、っていうのもあり得ない。その危機感って、私は本屋の人がいちばんあると思う。これに関して、私は出版社を信用しません。著者や出版社にとって外せないのは、書いたものを発表し、それをお金に替えること。電子が主流になれば、そっちへ移るほうが自然ですよ。

本屋だけなんです、製本された紙の本じゃないと存在意義を根っこから失ってしまうのは。本屋の人は、内容だけで本を説明することを意識的にやめないといけないくらいなんです。そうやって、むしろ本屋のほうが著者や出版社を引っ張っていかないといけない。 (p257-258)

 さわや書店の田口氏は 「魚屋が並べてる魚の味やおいしい食べ方を説明できなくてはいけない」 のと同じように、本のことを説明できなければならない、と言う。一方、ひぐらし文庫の原田氏は 「内容だけで本を説明することを意識的にやめないといけない」 と言う。どちらも正しいと思うが、小売である以上は 「紙の本」 にこだわっていてはダメなのではないだろうか。

 原田氏は 「たとえば村上春樹さんの新刊は必ず二種類が出るとか。読みたいだけの人向けの電子書籍版が基本で、紙のほうは村上春樹さんの大ファン向けに、豪華な装丁で、自宅の棚に飾っておけるようなデザインでつくる」(p128) といった予測もしており、私も同感である。しかし原田氏は 「本屋が先頭に立って紙の本は大事だといわなければならない」(p262) とも言っている。

 「本屋」 なのだから、本を売ることにこだわるのは構わない・・・ でもお客様が電子の本を望んでいるのであれば、それを提供するのが 「本屋」 の使命 ではないのか? 私は他の業界に比べて、出版業界にはこの顧客視点が欠如しているような気がしてならない。そして、もうひとつ。冒頭でも触れたが

ジャンル問わずすべての本を一緒くたに議論してしまいがち

これに問題意識を感じる。少なくとも前述した 「知的消費」 と 「知的生産」 に分けて議論すべきである。私の考えでは、「知的消費」 にも2つあり、ただ読んで終わりの情報を得るためだけの本であれば、電子の方が向いているだろうし、満足感を得たり読んでいる時間の過ごし方の方に力点が置かれる本ならば、紙の風合いを楽しむという価値は間違いなくある。

 一方、ビジネス書などのように読後の 「知的生産」 の方に重きを置かれるような本は、やはり電子向きであるように思う。しかし、何度も読むに連れ、ある時は紙で、また別の時は電子で・・・ と同じ本でも紙と電子の両方を使い分ける読み方も出てくるかも知れない。

紙か電子か? ネット書店かリアル書店か?

いずれも顧客視点に立っていない。読者が求めているのは、出版物そのものの内容(情報)やそれを通して得る体験(読書自体や読後のアクション)である。

もう一度問いかけたい。

「本屋」 は紙の本を売ることにこだわらずに
読者(客)にとって良いモノ・コト・サービスを提供すべきではないか?


「本屋」 は小売、書店員は " 商売人 " であると同時に
立派な " ビジネスパーソン " である!

" 書店論 " 云々の前に、 " ビジネス論 " を語って欲しいと感じるのは私だけだろうか。

 お願いだから、これ以上書店を減らさないで欲しい。そのために自らが生き残る術を【顧客視点】で真剣に考えて欲しい・・・ そう願う今日この頃である。

「本屋」は死なない「本屋」は死なない
石橋 毅史

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星野 渉

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posted by 鳴海寿俊 at 00:00| Comment(0) | 【書籍】 出版業界・読書全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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