2015年01月03日

『「本が売れない」というけれど』@ 10年後、50年後、100年後にあらわれるかもしれない読者のために

459114223X(046)「本が売れない」というけれど (ポプラ新書)
永江 朗
ポプラ社 2014-11-04

by G-Tools

 著者は永江朗氏。1958年生まれ、経歴は約7年間の書店勤務、雑誌編集の経験を経て、フリーライターに、とある。売り手と作り手の両方の視点を持っている人は、両者の苦労を知っているから期待が持てる。これに読者の視点もふまえられていたら、書き手としては最高だと思った。

 読んでみて、想像以上の内容の濃さにびっくりした。

 出版業界について書かれた最近の本では(私の中で)一番。良書かどうかの基準は人によって異なるけれど、私にとっては【超】がつく良書であった。おそらく私自身がこの業界に対して感じていることを代弁してくれていた(気持ちよかった)だけでなく、私の(今まで気づいていなかった)偏った考え方を指摘してくれたこと、そしてラストの締めくくりがズッキューンと私の胸に突き刺さってきたからであろう。

 少々長いが引用させていただく(注: 原文は強調箇所なし)。

 と、ここまで書いてきて、ぼくはこれまで問いの立て方を間違えていたのではないかと思い至った。

 いま考えるべきことは、出版社が生き残るためのアイデアでもなく、書店が生き残るためのアイデアでもない。

 優先順位をはっきりさせよう。本と読者にとって何がいちばん重要なのか。

 重要なのは「本」だ。 何が「本」かということは、とりあえず措いておいて、まずは「本」を大事にしよう。「本」が生き延びるためにどうするか。

 次はその「本」を生み出す「著者」と本を読む「読者」だ。著者のいない本はない。誰も書かない本はない。本は誰かによって書かれなければならない。だから著者が大切だ。そして 誰にも読まれない本は意味がない。本は誰かに読まれてはじめてその存在の意味を持つ。 ただしこの「読者」はいま存在しているとは限らない。もしかしたら、いまはないかもしれないけれど、10年後、50年後、100年後にあらわれるかもしれない。そういうものとしての読者だ。

 すべては、この「本」と「著者」と「読者」のために何ができるかから問われなければならない。「本」は出版社が活動を続け、その社員たちに給料を払うために存在するわけではない。「本」は書店や取次で働く人たちのためにあるわけではない。出版社も書店も取次も、「本」を「読者」に手渡すためにある。

 現在の「本」を取り巻く状況はそのようなものになっているだろうか。著者が10年かけて書いた本が、書店の店頭から1週間で姿を消し、多くの読者が知らないうちに断裁されパルプになってしまう状況は、「本」と「読者」のためになっているだろうか。それどころか、出版社と書店と取次の経営のために、「本」と「読者」がないがしろにされているのではないか。

 *

 「本」について考えるとき気をつけなければならないのは、いまある「本」だけが「本」ではないという事実についてだ。「本」はその誕生以来、常に変化してきた。たしかにいまの「紙に印刷して綴じて表紙をつけた」本は、完成された姿かもしれない。しかし、これからも「本」は変わっていく。ぼくたちのメディア環境、情報環境が変化していければ、「本」もまた変わっていく。ぼくたちが守らなければならないのは、そのような未来のかたちも含めた「本」であって、現在の本やそれを生産したり流通させたりするシステムではない。「本」をめぐる思考は、常に未来に開かれなければならない。

(p234-236)

 町の書店を残すにはどうしたらいいか、という議論は枝葉の議論としてはいいかもしれないが、永江氏が述べる通り、優先順位の高さから言えば 重要なのは本 である。しかしこの意見についても、本書を読むまで実はしっくりきていなかった。なぜなら本をプロダクトの1つと考えたとき、マーケティング的には本を残そうとすることを顧客の存在よりも優先することに、違和感を感じていたからだ(だから不思議な業界だと常々感じていた)。

 10年後、50年後、100年後にあらわれるかもしれない読者のために・・・

 本が生き延びるためにどうするか、という発想はもはや本をプロダクトとは捉えていない。文化的な重みを持つものとして未来に受け継いでいこうという考え方に、(恥ずかしながら)本書を読んで初めて気づいた次第である。でもこの事に気付くと「電子書籍よりも紙の本がいい」と単純に比較しようとする意見に対して、違った反論が浮かんでくる。

 古くは粘土板だったり、植物の葉や動物の皮に書いて " 情報 " を伝えてきた。それが紙に代わっても、書き写しから印刷に代わっても、 " 情報 " を伝えるという本の目的に変わりはない。現時点において、電子書籍は紙の本と比べて俯瞰して見たり、複数の本や別のページを参照しにくいなどの課題はあるが、近い将来解決されていくだろう。装丁や手触りなどの理由で「紙の本がいい」という意見はこの本の形態がたどってきた歴史の流れとは異なる論点である。残すべきは紙のカタチをした本ではなく、むしろ " 情報 " の方である。装丁や手触りなどの議論は分けてすべきである。

・・・とまぁ、私の場合は装丁や手触りに何のこだわりもないので、どうしても角が立つ表現になってしまうのだが、永江氏は 「ぼくたちのメディア環境、情報環境が変化していければ、「本」もまた変わっていく。ぼくたちが守らなければならないのは、そのような未来のかたちも含めた「本」であって、現在の本やそれを生産したり流通させたりするシステムではない」 と大人である。永江氏の著書を読むのは本書がはじめてであったが、非常に冷静な分析で感心した。他にも紹介しておきたい内容が数多くあったので、折りをみて書き加えるとしよう。

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posted by 鳴海寿俊 at 18:11| Comment(0) | 【書籍】 出版業界・読書全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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