2015年05月06日

見習うべきダイヤモンド社の取り組み 「刊行点数減って売り上げが増加」 する編集者の評価方法

 文化通信増刊『文化通信bBB』(15/4/27号)に興味深い記事を発見した。岩崎夏海著 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』、佐々木圭一著 『伝え方が9割』、岸見一郎/古賀史健著 『嫌われる勇気』 などのヒット作を相次いで出しているダイヤモンド社。その書籍編集局長の今泉憲志氏のインタビュー記事を読んで、胸が躍るような気がした。タイトルはこうだ。

 刊行点数減って売り上げが増加
 編集と営業の連携がプラスに


 とっかえひっかえ新刊を出し続けて食いつないでいる出版社が多い中、刊行点数を減らして売上を伸ばすことはそう簡単ではないはずだ。出版業界の事情については、読者としての不満を込めて連載コラム 「ビジネス書に対する接し方が変わってしまった!」 にも書いたが、本の粗製濫造はやめて欲しい。読者からすれば、業界関係者が叫ぶ 「文化を守ろう」 とか 「読書推進」 が薄っぺらいものに感じてしまう・・・ だって読まれるべき本を自ら粗製濫造しているのだから。

 それはさておき、ダイヤモンド社の取り組みのどの点が素晴らしいのだろうか。1つは

 【ロングセラーを生み出す編集者評価の方法】

だと思う。

── 編集者への評価は?

 各編集者がその年に出した新刊も含めて過去5年以内に手掛けた本が、当該年度にどれだけ売れたのかで評価します。つまり、ロングセラーを作ることのインセンティブを持たせているのです。そのことを部員もよく理解してくれて、長く売れる本を作ろうとしています。

* 文化通信増刊『文化通信bBB』(15/4/27号)

 ただ 「ロングセラーを目指せ」 と言うだけでなく、編集者に対する評価手法にまで踏み込んで、意識的に 「ロングセラーを目指さざるを得ない」 環境を構築しているところに感心する。かつては編集者1人が担当する新刊点数は 「年間8~10点出していましたが、そうしていると明らかに粗製濫造になりがち」(今泉氏) だが、しっかり作って、しっかり売ることにより、以前に比べて刊行点数は大幅に減ったが、売上は逆に良くなっているという。ちなみに 「2014年度の新刊点数は159点です。編集者は30人程度ですから、1人平均で年間5点台」(今泉氏) で一般的な水準よりかなり少ないとのこと。確かに年間5点くらいだと、素人目に見てもしっかり作っている感じがする。

 インタビュー記事では他の改善事例として、次のような取り組みも紹介されている。

●企画の決定権を営業部門に持たせる
 → 早期の情報共有により売るための知恵が出やすい

●編集者に自主的にプロモーション活動を行わせる
 例)ネットへの記事配信、著者との対談、取材対応、パブリシティーなど

これらはいずれも編集者に作ることだけでなく、売るということにまで意識がいっているからこそ、機能するのだと思う。その肝になっているのが、ロングセラーを生み出すことに価値を置いた編集者の評価方法ではないだろうか。かつてはダイヤモンド社でも

「編集がろくな本を作らないから売れない」
「いい本を作っているのに営業が売ってくれない」


という話がよく出たとのことだが、今では編集/営業間では良い信頼関係が築けているそうだ。それは当然かもしれない・・・ だって営業も編集も売らなきゃ評価につながらないなら目指すゴールは同じなのだから。


 もう1つ最後に感動したこと。それは電子書籍への取り組み姿勢である。

── 紙と電子の同時発売はいかがですか?

 読者の便を考え、基本的にはすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売しています。編集者には紙と電子を含む出版契約書を早めに交わすよう指示しています。契約が事前にしっかり交わされていれば、毎週木曜日に紙の本を取次搬入し、電子書籍は翌週の月曜日には発売できる体制です。このタイミングですと、ほぼ地方も含めて紙が書店店頭に並んだ段階で電子書籍が発売されることになります。

── 書籍市場の縮小は気になりませんか?

 業界全体のマクロの市場動向と、自社のミクロな動向は、必ずしもイコールではないと思っています。例えばこれから数年で書籍市場がさらに2割縮小したとしても、あらゆる出版社の売り上げが軒並み2割減るわけではないでしょう。

 書籍編集局の売り上げは40億円程度です。8000億円の市場が2割減って6000億円ぐらいになったとしても、当社の規模からすれば、いくらでも伸びる余地があるわけです。

 しかも従来の流通が変わりつつある今日のような時代の変わり目は、業界のトップ企業ではない当社のような会社にとって、より上を目指すための大きなチャンスだと思っています。そのために電子書籍など、新しい試みにもいち早く前向きに取り組んでいます。

* 文化通信増刊『文化通信bBB』(15/4/27号)

 電子書籍については 「読者の便を考えて」 とさらりと述べ、紙との同時発売を前提に仕事を進めてくれているところが、kindleユーザーとしては非常にありがたい。また書籍市場の縮小についても、後ろ向きに捉えず、むしろ積極的に攻めていこうという姿勢を感じる。

 これからも、ダイヤモンド社のしっかりした本づくりを読者として応援していきたい。
 (以前から好きな出版社だったけどますます気に入ってしまったなぁ)




posted by 鳴海寿俊 at 17:07| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | 更新情報をチェックする
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