2014年05月11日

『本を出したい人の教科書』 ベストセラーの秘密がここにある

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吉田 浩
講談社 2014-04-11

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 今回紹介する本は、本を書きたいと思っている人向けの本。著者は吉田浩氏で 「企画のたまご屋さん」 という「本を書きたい」著者予備軍のような方の企画を、出版社につなぐ役割を担っているNPO法人の創設者である。

「本を書きたい」 人向け・・・

 この時点で「私は無理!」と思った方も多いかも知れない。本書(p45)では、哲学者・教育者の森信三(1896-1892年)の「人間は一生に1冊は本を書きなさい」という言葉を挙げつつ、 " 書きたい(教えたい) " という気持ちは、人間が持つ基本的な欲求の「承認欲求」の1つであり、本を書くことは「最大の自己実現」だと述べる。

 私は「あわよくば著者に」と思っているので、この主張には大いに賛成するが、大半の人はポカン・・・ という感じかも知れない。

 なぜなら、多くの人には、本を " 読む " という発想はあっても、 " 書く " という発想はないからだ。それに現代は、本以外にも多くの自己発信の手段があるし、わざわざ " 本を書く" ことに対して価値を見出せない限りは、労力を割く理由がない。

 いわゆる「本を " 書く " ための本」に書かれていることでありがちなのが、こんなフレーズだ。

誰でも作家になれる!
誰でも書けるテーマを持っている!

 これは「本を書くぞ」と決めた人間からすると、背中を押してくれる感じで有り難い言葉だ。ただこれは、本を " 書く " こと自体が目的になってしまいがちになるリスクをはらむ。そしてこの言葉は、「出版プロデューサー」という職業の人が言っていることについて、冷静に考えなければならない。

 「出版プロデューサー」と呼ばれる人達は、出版社から著者に払われる印税の一部を収益として得ている。例えば吉田氏が運営する「企画のたまご屋さん」の場合には、印税のうちの30%('14/05/11現在 「企画のたまご屋さん」に支払う費用について より)を徴収している。

 これが妥当な対価かどうかはコメントを控えるが、ホームラン(各著書の発行部数)を狙うよりはヒットを量産する(間口を広げてプロデュースした人数を売りにする)方を優先している「出版プロデューサー」が多い印象を受ける。

 似たような本ばかりが生まれ、本来読むべき良書が埋もれがち・・・ 大量の返品が出版社の収益を圧迫し、出版不況となっている状況において、自己実現のためだけに安易に著者をプロデュースするのはいかがなものか。

 私が考える、「本を書こう」と決意するまでの " 健全な " プロセスはこんな感じだ。

「知識が足りない」
 そう思ったら、ジャンルを絞って、3~5冊読んでみる。
 【理解】できたら、他の人に説明できるところまで理解しているか試してみる。

 ↓
 ↓ 「あれっ?」と思う。
 ↓ もっとうまく説明する方法ないかな・・・ と興味がわく。
 ↓ (興味がない分野はここまで)
 ↓

「もっと深く知りたい」
 と思ったら更に10冊読んでみる。するとこの分野の本は自分が一番読んで知っていると
 錯覚し、自信がつくと同時に、もう少しこういう風に伝えた方がいいのに・・・と気づく。

 ↓

「他にこのジャンルの本ってないのかな?」
 と思ったら、過去のベストセラー(今は書店に並んでいない良書があるのでは?)と
 ここ1~2年の新刊本を全部読んでみる。

 ↓

「自分ならこう伝えるのに・・・
 でもそのアプローチで書かれた本がない!
 それなら、自分で書いてみよう!」

 このような段階を経て初めて「自己発信」の意欲が湧いてくる。そしてこの段階では、自己発信の手段は本でなくても構わない。むしろ、出版業界のためであれば、似たような本を出す(返品を増やす)ことを踏みとどまらさせるべきではなかろうか。現代は本に限らず、Twitterやらブログやら、いくらでも手軽な自己発信ツールがあるのだから。

 別の切り口で、"本を書く" という思考が働くとしたらこういう視点がある。大学教授の中野雅至氏の著書からご紹介する。

『ビジネスマンが大学教授、客員教授になる方法』(中野雅至 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/鳴海の紹介記事は こちら )より
ビジネスマンが大学教授、客員教授になる方法 (ディスカヴァー携書)ビジネスマンが大学教授、客員教授になる方法 (ディスカヴァー携書)
中野 雅至

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「読むために書く。一流の読書家になるためには、自ら書くという行為が欠かせない。(略)その書籍や論文を、自分の論文にどう生かすかを考えながら読むのです。自分で何かを書くために読んでいるという感覚がない限り、効率的な読書法は生まれてきません」(p238)

「自分で書くことを前提に読書すると、他人の文献などは所詮、自分の論文のための参考資料だと見なせるようになる、というメリットがあります。」(p240)

【自分で書く】つもりで読むことのメリット(p239)
 ・ 責任感や危機感が生まれ、資料探しに必死になる
 ・ 書き手の視点で読むため、著者の意図が見抜けるようになる
 ・ 受け身の姿勢がなくなる

 前置きが長くなったが、このような経緯を経て「本を書こう」と思い至らない限りは、「本を書く」ための本を読む必要はないだろう。ただもし

「本を書いてみたい! でもどうしたらいいんだろう?」

という決意が固まったとしたら、この本は私の中ではイチオシである。
理由は以下の3点。

1.著者の実績
 著者の吉田氏は 「企画のたまご屋さん」 の創設者であり、「日本村100人の仲間たち」(日本文芸社/45万部)などの代表作をはじめ、自らも200冊を著者として書いた実績を持つ。なにしろ30年間で1600冊もの出版を手がけたというから折り紙つきである。

2.著者の信念
 「出版プロデューサー」(実はこの肩書を日本で初めて名乗ったのが吉田氏だそう/p26)に対する苦言を冒頭では述べたものの、吉田氏の本作りにかける姿勢は大変共感できる。

 ちなみに、成功術やマネー本を数多く書いている、本田健氏(公式サイトは こちら )が本書のまえがきでこんな推薦文を寄せている。

(p2・3 より)
「これまで、売れる本だけでなく、社会に必要な本も数多く出してきた吉田さんですが、ときには、売れなくて利益にならない本も世の中に出しています。

『出版は、社会的事業なので、少数の人にしか届かなくても出さなければいけない本がある』

という言葉にしびれました。私も本当にそのとおりだと思いますが、現在の出版不況の中では、なかなかそういうことを実行できる人はいません。それは、数々のベストセラーを連発する実力があって、初めて言えることなのかもしれませんが、そういう両面を持っている出版人がいることに、私は安堵感を覚えます。」

 吉田氏に対してだけでなく、本田氏にも親近感が湧いてしまった私・・・ 他にも吉田氏はこんな言葉を述べている。

『いい本』の大前提には『売れる』という要素が必要です。
売れない本を作った作家や編集者は、それを猛省しなければなりません。」(p35)

「『情報を必要としている人に届ける』という出版の使命から考えると、売れない本でも出す意義があるのです。私はこの本を『使命本』と呼んでいます。人を助けるという使命を持って生まれてきた本だからです。」(p36)

最初からマーケットが小さな本もあります。
 それでも、『使命本』は出す意義があるのです。
 本は売り上げが最も大事ですが、売り上げがすべてではありません。

 作家や編集者が商業主義に走って、『使命本』を作らなくなったときこそ、出版文化の衰退が始まるではないでしょうか。」(p37)

「『いい本』を、私はこう定義しています。
 『いい本』とは、読者が幸せになり、作家がもっと幸せになる本。」(p38)

世の中を見渡すと、『みんなで考えました』という本だらけです。だから本が売れなくなっていくのです。これは、編集会議に参加する編集者が、サラリーマン化しているのも原因のひとつでしょう。何かものごとをスタートするとき、一番無難な答えは『できません』という答えです。『できる』と言った瞬間から、責任を取らなければならないからです。とりあえず『できない』と言っておけば、自分の立場は擁護できるし、安全圏にいられるのです。

否定はだれでもできますが、肯定は本質を知らないとできません。なぜならば、ダメな理由はたったひとつ提示すればいいからです。『この本は売れる』という理由より、『この本は売れないだろう』という理由のほうが、ひとつどころか10倍は多く考えつきます。本にオリジナリティがあればあるほど類書は少なく、他の本と比べることができません。

だから、出版したあとは売るしかないのです。
過去のデータは関係ありません。『売る』という信念で行動するしかないのです。信念のある出版社が、どんどん少なくなってきました。『私が責任をとります』と言う編集者が、どんどん少なくなっています。」(p42・43)

 上記の赤字にした部分は、現在の悪しき出版業界の構造をよく表現している部分かと思う。

3.読みやすさ
 本書をパラパラとめくってみた時、なんてキレイな本なんだろう、と思った。それは余白の取り方とレイアウトの洗練さだ。シンプルだが、読者を疲れさせない考慮がされていると感じた。章立ては次の通り。

 第1章 「いい本」とは何か?
 第2章 テーマとUSPの発見      
 第3章 本を書く準備、ネタ集め
 第4章 間違いだらけの本作り
 第5章 企画書作りのルール
 第6章 文章テクニック
 第7章 ベストセラーの分析
 第8章 夢をあきらめない、書きつづける


*USP・・・ユニーク・セリング・ポジション(個性的で売り込みのできる主張)

 1・2章は、本を「書きましょう」「書けますよ」と促しているパート。3~6章はテクニック、7章は売り方や切り口についてで、8章は精神面といったところだろうか。内容はまんべんなくという感じでバランスも取れていると思う。

 特に、書くテーマが既に決まっている人にとっても、次の観点での自己分析は有効だと感じた。

◆書きたい本・書ける本が見つかる5つの輪 (p130)
 (過去の輪)「お金」「時間」
 (現在の輪)「専門性」「ネットワーク」
 (未来の輪)「ライフワーク」
 5つの輪が重なる部分が【コアコンピタンス】であり本を書くテーマ

◆最後まで書けない理由は【属性】が違う本を書いているから (p135)
 Bタイプ(ビジネス)  ・・・ お金、仕事、成功、効率アップなど
 Pタイプ(プライベート)・・・ 体験記、趣味、自由な生き方など
 Sタイプ(ソーシャル) ・・・ 社会、家族、人間関係、学校、教育、医療など

◆人生のポジショニング (p142)
・カリスマ(いるだけでみんながやってくれる、崇められる)
  → 書くべき本【自己啓発書】・・・人生、哲学、価値観、教育、ものの見方・考え方など

・大家(ノウハウを毎日仕入れて勉強している、尊敬される)
  → 書くべき本【ビジネス書】・・・手段、手法、やり方、実務、学問、情報など

・職人(ひとつのことを極めたい、評価される)
  → 書くべき本【専門書】・・・技術、経験、解説など

 印象として、前半は「『いい本』とは、読者が幸せになり、作家がもっと幸せになる本を書きましょう」「誰でも書けますよ」というトーンなのに、後半は「こうすればベストセラーになりますよ」「あきらめずに頑張りましょう」というトーンにシフトしている感じ。

 「本を書くための本」としては申し分ないし、間違いなくイチオシなのだが、『出版は、社会的事業なので、少数の人にしか届かなくても出さなければいけない本がある』と述べ、出版不況の指摘もしている吉田氏に、あえて率直な感想を述べさせていただくとしたら、次の主張は少々残念に感じた。

「ベストセラーを狙って出す方法があります。『えっ、そんなことができるの?』と突っ込まれそうですが、私はできると思っています。その方法を一言で説明すると、『ベン図方式』です。『ベン図』は中学校の数学の時間に習います。2つの円を使って『集合』の関係を視覚的に示した図のことです。出版業界におけるベン図とは、『すでにできあがっている読者層の上に、同じ読者層をつかまえるために、同じような円をかぶせる』ということです。(p202)

「すでにできあがっている購買層をうまくつかまえると、ベストセラーは非常に高い確率で出せるのです。」「『柳の下のドジョウ狙いだ』と批判する人がいますが、それはマーケティングを知らない人の意見です。『二番煎じの本を出せ』と言っているのではありません。すでに、時代の大きな波として『市場』ができあがっているのです。その時代の波に乗り、大きな市場をもうひとつ作ろうということです。」(p203)

 吉田氏の真意はよくわかるのだが、実際の出版社の本づくりや書店の本の並べ方は違う。ドラッカーが流行れば、書店の平積みはドラッカー一色になる。後から出た新しい本が先に出た本に対して差別化が図られているかというと、似たような本ばかり。おまけに内容は違うのに売れ筋のタイトルと似通ったネーミングの本を出し、読者の本探しにやりにくくしている。

 この状況は、本が売れて出版社や作家は幸せになっているかも知れないが、果たして読者にとって幸せになっているのだろうか・・・ (読者に似たような本、紛らわしい本を買わせてはいないか?)

[鳴海の関連記事]
 書店で見つけた "99%" の人が「アレっ?」と思うタイトル・キャッチコピーの本たち
 ”easy ”な本が生まれてしまう著者と出版社の事情
 ┗ 「『有名人になる』ということ」(勝間和代 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より

 残念ながら、吉田氏が望んでいる通りに出版業界はなっていない(少なくとも私の目にはそう映る)。そして何より私が悲しいのが、吉田氏自身もこの業界構造を認めているところだ。

「もともと出版業界はこのベン図のおかげで業界全体が活性化してきました。ひとつの本がベストセラーになれば、また同じような本がベストセラーになります。本は単独で売るより、何冊も類書を平積みにしたほうが相乗効果でより売れます。読者は書店に足を運んだ際に、ベン図の中にある本をどんどん購入するわけです。時代の波をうまく捉え、ベン図方式を活用するなら、新人作家でも小さな出版社も場外ホームランをかっ飛ばせます。この高等戦術の『ベン図方式』をうまく使って、たくさんのベストセラーを生み出してください。」(p205)

これは読者が読みたい本を提供する観点よりも、読者に買わせようとする観点を優先した主張と感じるのは私だけだろうか。また見方によっては p118 の「■今すぐ売れる本は書いてはならない(『今すぐ売れる』は『今すぐ消える』)」の主張と矛盾してはいないだろうか。

[鳴海の参考記事(業界人の賛同したい提言)]
「ヒット作の類似本をつくろうという発想では熱意が続かない」
「次世代に向けた本を作らなければいけない。これまで多くの出版社はその部分で怠けてきたと思います。」

 ┗ 柿内芳文氏(12/06/28号 新文化)

【働く背骨を作る本】書く側、すすめる側の責任と無条件に買ってしまうシチュエーション
 ┗ 山田真哉氏/小暮太一氏(12/10/02号 DIME)

【読書離れ】の原因は「読まない者が悪い」のではなく「読まれない物が悪い」から
「出版業界は、ややもすると『読書離れ』などといって、『読まない者が悪い』といった切り捨て方をするが、『読まれない物が悪い』と考えて、出版物に新たな価値を付加するような業界としてのアプローチも必要ではないか。」
 
 ┗ 星野渉氏(2012/09/10号 文化通信)

「出版社に大切なのは本気でつくること」
「著者は偉ぶるなと言いたい。人気がなくなったタレントがテレビ局に呼ばれなくなるのと一緒で、本気で書かないと次がないことを分かっていない。世の中に良いコンテンツを出して、読者に喜んでもらい、いかにして利益を生むか、それを分かっているプロ意識のある著者が少ない。」

 ┗ 小暮太一氏(12/11/01号 新文化)

「くだらない本が多すぎる」出版業界を良くする唯一の方法は?
 ┗"書店界のゴッドファーザー"(12/11/19号 文化通信)


・・・とは言え、本を書きたいと思う人には出版業界の事情はあまり考えず、読者のためになる本を純粋に考えて書いてくれれば良いと思う。では、著者になる夢を抱いている私はどうなんだ!? 自分で自分に突っ込みを入れられたら、こう答える。

読めば読むほど、書けなくなるんだよなぁ

 吉田氏も言ってる・・・「類書は、参考になりそうなものを3冊読みます。3冊までです。その内容が完全に頭の中に入ってから、他の参考図書を読んでください。最初にたくさん類書を買いすぎると、逆に本が書けなくなります。」ってね(汗)。


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吉田 浩
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その他、「本を書く」ために参考となる書籍
4806136476出版で夢をつかむ方法
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4887596855ビジネスマンのための40歳からの本を書く技術
三輪 裕範
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2009-01-18

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畑田 洋行
同文舘出版 2004-05

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4901221396著者の素―採用される企画と出版社のしくみがわかる
中本 千晶
万来舎 2009-11

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横田 濱夫
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4198627649「ビジネス書」のトリセツ
水野俊哉
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4861137322新「ビジネス書」のトリセツ
水野俊哉
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posted by 鳴海寿俊 at 00:00| Comment(0) | 【書籍】 出版業界・読書全般 | 更新情報をチェックする
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