2016年05月28日

「出版社にとって、もはや紙書籍と電子書籍を二項対立として考える時代は終わった」(『新文化』2016/5/19)

 「紙と電子を融合した出版事業を」 というタイトルの記事。『新文化』(2016/5/19付)の一面に掲載された (株)出版デジタル機構 の新名新社長の寄稿記事である。

 出版社(KADOKAWA)出身の新名氏はこう述べる。

 出版社にとって、もはや紙書籍と電子書籍を二項対立として考える時代は終わった。出版社が利益を最大化し、著者に還元し、将来も事業を継続するためには、可能な限り紙版と電子版の両方を刊行すべきだと考える。

 このような主張や提言がもっと出版業界に浸透すればいいのに・・・ と思う。基本的にすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売している、ダイヤモンド社の書籍編集局長・今泉憲志氏の

「読者の便を考え、基本的にはすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売しています。編集者には紙と電子を含む出版契約書を早めに交わすよう指示しています」

(鳴海の関連記事は こちら )

の言葉は控えめだが、新名氏も次のように述べている。

 出版社はこれまでの本造りと同様、作品の特性や想定する読者に応じて紙版と電子版の出版形態を検討し、同時に刊行するのか、どちらか一方を先行するのか、順番も自由に検討すればよい。

 ただし、権利処理とデータファイルの制作は、紙版と電子版を同時に行うことがコストの観点から最も望ましい。また、アメリカの出版社のように紙書籍と電子書籍を一体化した原価計算、売上管理も考えるべきだ。

 読者としては、紙版を先行されてはガッカリ、ダイヤモンド社のように「読者の便を考えて」、電子版も同時に刊行して欲しいものだ。

 残念ながら、新名氏のコメントで気になったのは

「日本人読者の紙書籍への強い愛着」

「あるアンケートによると、書籍を読むのに最適の手段として紙書籍をあげた日本人は74%にも上ったそうだ。これはアメリカ人の51%やイタリア人の54%よりもはるかに高い数字である」

といったコメント。

 ここで言う「日本人読者」というのは、紙の本だけを読んでいる、電子書籍を読んだことのない読者のことを指しているのではないか? と疑念を抱く。私の印象としては、電子書籍を読んだ経験のある読者は(私自身も含めて)、手軽に多くの本を持ち運べて、安価で購入できる電子書籍の方を望んでおり、それでも紙書籍を選択する読者の方が少数派ではないかと考えているからだ。

 「書籍を読むのに最適の手段として紙書籍をあげた日本人は74%」

という結果が出たアンケートの調査対象はどのような人なのか? どちらが書籍を読むのに適しているか? という質問をするならば、全員が電子書籍を読んだことのある読者を対象にしなければ、適切な調査結果は得られないはず・・・ 調査対象を無作為に選んだアンケートだとしても、電子書籍を読んだことのある経験者の比率がアメリカ、イタリアと比べてどうなのか? この観点で考察されていない限り、このアンケート結果を持ち出しても説得力に欠ける。

とは言え

「出版社にとって、もはや紙書籍と電子書籍を二項対立として考える時代は終わった」

という出版デジタル機構・新名氏の出張、そしてダイヤモンド社・今泉氏の

「読者の便を考え、基本的にはすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売」

という取り組みは、読者にとって大変有り難いことである。なぜなら、紙書籍は読者に【3重のコスト】を強いているから・・・ 本の作り手の方々にはこれを重々認識いただきたい。

(鳴海の関連記事)
 本作りに携わる人たちに知って欲しい読者が支払う 【3重のコスト】 

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posted by 鳴海寿俊 at 21:48| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | 更新情報をチェックする
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