2017年03月25日

リアル書店で電子書籍を売る!

リアル書店で電子書籍を売る

 こんな夢のようなスキームを実現しているのが、ドイツ発の書店連合「tolino」アライアンスである(鳴海の紹介記事は こちら )。一般社団法人日本出版インフラセンター 発表の 「ドイツ出版業界実態調査報告書」(2015年7月) によれば、現在6カ国(ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、オランダ、ベルギー)の20書店/1500店舗で展開されているという。

 電子書籍の専用端末をリアル書店の店頭で販売するだけでなく、ユーザーが電子書籍を購入した際、端末を販売した書店にマージンが入る仕組みを取り入れているから驚く。紙の本を売ることにこだわり続けている日本のリアル書店と違って、「tolino」の導入店では、お客様の要望に応じて、紙ではなく電子書籍をおすすめすることも可能なのだ。

 「ドイツ出版業界実態調査報告書」 によれば、「tolino」の成功要因として次の3点が挙げられている。

 ① Amazonに対する危機感
 ② 統一ブランドによる展開
 ③ 各プレイヤーの強みを出し合い、アライアンスを短期間で構築

 電子書籍では儲からない・・・ と分かっていながらも、共通の敵はAmazon であるという認識(このままではAmazonにお客様を奪われたまま戻ってこない)を共有し、リアル書店同士が一致団結 して(本来は敵同士でもあるリアル書店チェーンが) 「tolino」という共通のブランド・サービス・端末で対抗 したのである。

 書店員たち自ら「tolino」端末を手にして使い込み、顧客に自信を持って販売できるようにマニュアルを作成して、サポートしあったという話には感動すら覚える。ちなみに詳しい事情については、ドイツ視察に同行した翔泳社の岩切晃子氏のレポート 「2015年ドイツ出版業界視察報告記」 も大変参考になるので是非ご覧いただきたい。

 2013年3月にサービスを開始した「tolino」。Kindleとのシェア争いは下記の通り。

tolino_kindle_graph01.jpg

(出典: buchreport/14. November 2014 「Tolino zieht am Kindle vorbei」

 かつては Kindleが70%以上のシェアを握っていたというが、2013年3月にサービスを開始し、同年2Qでは「tolino」が30%のシェアを奪い取り、翌年2014年3QにはKindleの39%に対し、「tolino」が45%と逆転! その後、40%台で両陣営は拮抗しているという(『情報メディア白書 2016』より)。

 一方、日本のリアル書店はどうか。

 例えば紀伊國屋書店は Kinoppy で電子書籍を販売しているし、TSUTAYAではBookLive!との協業により、紙の本(主に雑誌)を購入すれば無料で電子版が付いてくる Airbook というサービスを行っていたりする。

 しかし、ドイツの書店ほどの電子への力の入れよう、チャレンジ精神は感じられない。むしろまだ紙の本を書店という場所でどう売ろうかと試行錯誤しているように思える。

 紀伊國屋書店は、出版社からの直仕入・買い切りを拡大している。一昨年、『職業としての小説家』(村上春樹著/スイッチ・パブリッシング)の大半を買い切り、紀伊國屋書店→取次→他書店チェーンに流通させたのは記憶に新しい。ただし昨年11月末時点において、買い切り対象タイトルは、出版社20社で94タイトル(『文化通信』2016/12/19号)と限定的。

 TSUTAYAに関して言えば、「5つのイノベーション」(①地域の特性に合わせた新規出店、②既存店のリノベーション、③TSUTAYA会員カード「Tカード」のデータベースを活用した満足度の高い品揃えの実現、④Airbookの拡大、⑤書店員の企画力を活かした独自企画)により、22年連続で書籍・雑誌の販売額が前年超えしている(『新文化』2017/2/9号)。しかし電子に限って言えば、 Airbookの対象誌は532点。雑誌に閉じればそれなりかも知れないが、書籍の電子版への取り組みに対しては弱い。

 一方、書店への流通機能を担っている取次は、ようやく「紙」の物流改革(せいぜい運送会社の協業や休業日増など)に取り組み始めた(遅すぎる!)という印象だ。大手のトーハンは、関連会社が前述の紀伊國屋書店の物流業務を受託する等の動きを開始しており賢明(以前の取次・書店の関係性から言うと信じられない!)だが、Amazonが出版社との直取引拡大に向けて体制を強化しているスピード感にはだいぶ劣っている気がする。

 Amazonの直取引の意味については、EBook2.0 Magazineの記事 「アマゾン・ジャパン『直取引』拡大の意味」(2017/3/23) が大変興味深い。

 『文化通信』の星野渉氏によれば、Amazon(書籍事業責任者 種茂正彦氏)は

 「取次が提供しているサービス以上のサービスを出版社、そして読者に提供しなければならない」と述べ、取次が提供してきた「物流」「金融」「情報提供」の役割を「出版社に提供していきたい」

としている(『文化通信』2017/2/13号)。

 本来、書店であるAmazonの敵はリアル書店のはずなのに、先に流通の最上流にある出版社を囲い込む作戦は非常に賢い。出版社はしたたかに電子比率を高めているし、取次は力のある書店に物流業者として使われる始末・・・ Amazonは取次が弱体化し、力のない書店が淘汰された後、いくらでも自前でリアル書店(既にアメリカではAmazon Booksとして出店済み)を作れる、いや書店が淘汰される前にAmazon Booksに鞍替えせざるを得ず、ショーウィンドーと化してしまうのだろうか。

 出版社との直取引が8割というドイツと日本は大きく事情は異なるが、書店で雑誌を販売していないドイツの「tolino」による成功事例を早く取り入れるべきではないか。日本の書籍の物流は定期刊行の雑誌に支えられてきたが、雑誌の販売額が激減し、もはや頼れなくなった今の日本の現状・・・ 何となくドイツと似ていないだろうか。

(参考)日本における実証実験報告(一般社団法人 日本出版インフラセンター)
  「リアル書店での電子書籍販売実証事業(BooCa)調査報告書」(2015/3/3) 

 ちなみにこんな動きがある。

楽天コボ、ドイツの電子書店システムを買収 数十億円で
 (日本経済新聞web 2017/1/6 19:28)

 楽天子会社で電子書籍事業の楽天コボ(カナダ・トロント)は通信会社のドイツテレコムから電子書店システムの事業を買収すると発表した。金額は数十億円とみられる。当局の承認を待ち、今月中に買収を完了する方針だ。

 ドイツの書店が共同で運営する電子書籍サービス「トリノ」のシステム開発を担う。コボはドイツ語圏で有名な同サービスの知見を得て海外事業の強化につなげる狙い。

 コボはトリノの電子書店サイトのサービスや電子書籍端末の開発事業を引き継ぐ。電子書籍のサービスは世界的にはアマゾンの「キンドル」のシェアが高いが、ドイツ語圏ではトリノがキンドルに並ぶ有名なサービスとされている。コボはシステム開発を担当するが、電子書店のブランドはトリノのまま残す方針だ。

 トリノはフーゲンドゥーベル、タリアなどドイツの書店大手が共同で提供するサービスで、2013年3月に電子書籍サービスを開始した。コボは190カ国でサービスを展開。500万冊の電子書籍を取り扱う。

 既に日本では、楽天Koboが有隣堂や蔦屋書店でも購入できる(取り扱い店舗一覧は こちら )。果たして、日本版「tolino」を目指しているのだろうか・・・ 今後の動向に注目していきたい。

(個人的にはもう少し、取次に頑張ってもらいたい・・・
 紙の本にこだわらなければ、取次主導で日本版「tolino」の実現も可能なはずでは?)
 
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posted by 鳴海寿俊 at 15:56| Comment(0) | ネット・電子書籍 | 更新情報をチェックする
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