2017年03月28日

河出書房新社がエブリスタとコラボ web発短編小説の書籍化チャレンジ

 河出書房新社の小野寺優社長の記事が『新文化』(17/3/23)、『文化通信』(17/3/27)と立て続けに掲載されており、非常に好感が持てたので取り上げたい。前者には、あのロングセラー『大人の塗り絵』が編集会議の俎上に載った時の裏話。そして後者には、投稿サイトエブリスタとのコラボについて、同社の芹川太郎社長との対談記事が載っていた。

大人の塗り絵 日本をめぐる四季の旅編やさしい大人の塗り絵 やすらぎの風景編大人の塗り絵 鉄道のある風景編

「本当にこの本を出したいと思ったら出せる社風がある」

と小野寺氏。ロングセラー『大人の塗り絵』が初めて編集会議で俎上に載った際、「認知症予防に効果的らしい」という情報だけで、参考になる類書すらないため、出席者は20分間沈黙。編集者の熱意を感じた当時の編集担当役員、山本濱賜氏の「まぁ、迷った時はゴーだな」の一言で、現在のシリーズ累計620万部の山がある。

『新文化』(17/3/23)

「迷った時はゴーだな」

これが河出書房新社の社風か・・・

 小野寺社長の言葉ではないが、いい言葉だなと思った。20分間の沈黙の後というのもうなずける(大人向けの塗り絵の本を出そうなんて、そう簡単に思い至らない)。企画を練る際、類書との比較は必ず行われるのだから、その類書が存在しない前例のない本を出すには勇気がいる。チャレンジできるかどうか・・・ 担当編集者は相当の覚悟を持って臨んでいるはずだから、会社として「迷った時はゴー」と言ってもらえる雰囲気・社風には、チャレンジしたいと思っている社員の背中をポンッと押してくれるような安心感はあるだろう。

 小野寺社長は 「看板の文芸、人文はもちろん、エンタメ系の本にも挑戦していく」 と今後の展望を語っている。

 そんな挑戦の1つなのだろうか。河出書房新社は、4月13日取次搬入で短編小説集『5分シリーズ』を発売する。収録作品はエブリスタに投稿された作品。今後も第2弾、第3弾を7月に投入し、継続的な刊行を予定しているとのことだ。

43096121135分後に涙のラスト (5分シリーズ)
エブリスタ
河出書房新社 2017-04-14

by G-Tools
43096121215分後に驚愕のどんでん返し (5分シリーズ)
エブリスタ
河出書房新社 2017-04-14

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430961213X5分後に戦慄のラスト (5分シリーズ)
エブリスタ
河出書房新社 2017-04-14

by G-Tools

 河出書房新社の小野寺社長は、エブリスタとのコラボレーションのメリットについてこう述べている。

 文藝賞をはじめとして、当社は新しい才能を発掘する取り組みをずっと大切にしてきました。

 ただ、エブリスタに投稿してくるようなエンターテインメント系の新しい才能は、やはり純文学、人文というイメージが強い当社にはなかなか集まってこない。

 しかも、もしそういう作品が送られてきたしても、現時点で当社がエブリスタのような視点で作品をセレクトする力を充分に持ち合わせているとも思えません。

 しかし、僕らはそういう作品にもトライしたい。でも、真似をして同じような仕組みを作ろうとしてもうまくいくとは思えない。ならその力を持っている方々と組んで、お互いの長所を生かすことで、いままでとは違ったものを作り、広げることができるのではないか。

 以前、芹沢さんがなにかのインタビューで、ストーリーが面白くても文体が文芸作品の体をなしていなければ従来の文学賞で拾い上げるのは難しいだろう、という趣旨の発言をされていましたが、的確な指摘だと思いました。

 当社は出版社の中では相当、そういう才能を拾い上げてきたと自負していますが、それでも十分ではない。

 ですから、ご一緒することで、そういう作品をさらに拾い上げ、新たな才能に出会えるのではないか、と楽しみにしているのです。

(河出書房新社・小野寺優社長) 『文化通信』(2017/3/27)

 「エンタメ系の本にも挑戦していく」と小野寺社長が述べていた河出書房新社なりの挑戦の仕方が分かったような気がする。

 一方、エブリスタの芹沢社長は紙と電子の競合について次のように述べている。

 競合するとはまったく考えていません。

 そもそもエブリスタの読者の中には、「紙の本を読んだことがない」という方もいらっしゃいます。「小説なんか書いたこともないし、そんなにたくさん読んでないけど、エブリスタを読んでいるうちに書ける気がして」と書き始めた方もいて、とんでもなく面白い作品を書いたりします。

 同時に紙の本を愛読してきた方々にも楽しんでいただける作品も多いので、それぞれ読者に最適な形でお届けしたいと考えています。

(エブリスタ・芹沢太郎社長) 『文化通信』(2017/3/27)

「読者に最適な形でお届け」

という読者目線のスタンスがいい。紙が先とかデジタルファーストだとか・・・ それは作り手の発想。ジャンルは異なるけれども、以前にこちらの記事でも紹介したが、「読者の便を考え、基本的にはすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売」 というダイヤモンド社のようなスタンスがこれからは求められるのではなかろうか。

 また「読書」や「書籍」の定義も曖昧になっているので、実態を捉えようとする際には注意が必要となってくるだろう。

 ケータイ小説、ラノベ、投稿サイトなどにおける「読む」行為は「読書」にあたるのか? 投稿サイトに掲載されている作品は「電子書籍」にあたるのか? 電子書籍市場には出版社のコンテンツだけでなく、個人出版のコンテンツが含まれるのか? など。

 『文化通信』の星野渉氏は、同2017/3/27号の「出版時評」でこう述べる。

 出版社は従来型読書を守ることに注力すべきなのか、それとも自ら新しい読書の形に飛び込んでいくべきなのか。答えは簡単そうにもみえるが、明治期に江戸時代の出版者が突如消滅した例を振り返ると、彼我の距離は意外に遠そうだ。

 それでも、この距離を飛び越えていく創業者魂を持った出版人が、次の時代を切り開くのであろう。

(文化通信・星野渉氏) 『文化通信』(2017/3/27)

 少なくとも河出書房新社の小野寺社長には、「自ら新しい読書の形に飛び込んでいく」チャレンジ精神を強く感じた。これからも応援していきたい出版社(者)である。


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posted by 鳴海寿俊 at 23:46| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | 更新情報をチェックする
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