2017年05月03日

激変する出版流通「コスト増は出版社が負担すべき」ポプラ社・長谷川均社長(『文化通信』2017/5/1)

 久しぶりに気持ちのいい発言に触れた。ポプラ社の長谷川均社長のインタビュー記事(『文化通信』2017/5/1)をご紹介したい。

 東京大学医学部卒業後、生命保険、シンクタンク、証券、コンサルティングなどの会社を経て、2009年にポプラ社に入社した長谷川氏。入社当時、「銀行・証券などの再編が進んだ業界と比べると、出版業界はまだ変わってない」と感じたそう。当初、経理・財務を任されたが、後に営業や編集などの業務改革にも着手し、以下を実行。

・ 数字を月次で把握(経理・財務)
・ 欠本補充の自動化(営業)
・ 訪問店数を減らし、1店あたりの営業時間を増やす(営業)
・ 担当顧客/商品の分離。守備範囲を狭く深くしてプロ化(営業)
・ 上記の担当替えローテーション(営業)
・ 書店への新刊紹介時に表紙イメージを見せる(営業)
・ 企画会議で子供の読者の声を聞く(編集)

など。新刊の準備期間を長く取ることによって、結果的に新刊点数は減っている(最盛期は年間300点近く、いまは200点台前半)とのこと。しかしその結果、新刊の実売が増え、利益も増えたという。長谷川氏はこう述べる。

 もし、業界全体で新刊点数を減らすことができれば、増えた利益の一部を書店さん、あるいは輸送費の負担に回し、いろいろな問題が解決できるはずです。

 またそうなれば新刊が店頭に出ている時間が長くなり、それだけ読者が触れる機会も増えると思います。


出典: 『文化通信』(2017/5/1)

 この意見には読者としても賛成である。リアル書店に行って、売り場にフレッシュさを感じるのは読者としても楽しい体験だが、あまりに変わり過ぎると「買え」「読め」と煽られている気がしてしまう。

 新刊点数が減って逆に売上が伸びたという例としては、以前にダイヤモンド社の取り組みをご紹介した。十分な編集期間を確保し、ロングセラー商品を生み出そうという姿勢は、両社とも共通しているように思う。

 また両社にはもう一つ共通点がある。それは読者に対する姿勢(対電子書籍)である。

 ダイヤモンド社・書籍編集局長(文化通信増刊『文化通信bBB』15/4/27号掲載当時)の今泉憲志氏は、「読者の便を考え、基本的にはすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売しています」 と述べている。大切なのは「読者の便を考えて」の部分。作り手側にありがちな独りよがり感はない。

 一方、ポプラ社はどうか。長谷川氏はこう述べる。

 まず、私は紙の本をとても大切にしたいと思っています。しかし、書店がどんどん少なくなって、子どもと本との接点が薄くなっています。今までどおり書店と図書館だけでは難しい。

 きっかけはゲームでも何でもいいですが、最後は紙の本を読んでもらうという流れをつくることが大事です。

 例えば、児童書は電子化しにくいですが、本との接点を増やすためだったら、どんどん電子化すればいいと思います。


出典: 『文化通信』(2017/5/1)

 紙の本を大切にするという気持ちを持つことは、作り手としてごく自然なこと。しかし、紙の本しか作らないということでは、私のような電子派の読者は困るわけで、顧客に対して選択肢を与えていないことになる。「読者と本の接点を増やすためにどんどん電子化すればいい」という長谷川氏の考えは、「読者の便を考えて」のダイヤモンド社・今泉氏の考えとは若干ニュアンスは違うものの、読者目線に立って本づくりをするという姿勢は共通していると思う。

 最後に長谷川氏の衝撃的な発言をご紹介したい。

 この業界はまだ、雑誌も書籍もたくさん売れて、アマゾンもなかった時代を引きずっていると思います。

 状況が変わって、流通コストなどを誰かが負担しなければならなくなっていますが、現状で負担できるのは出版社しかないと思いますので、遠慮なく出版社に転嫁してほしいと思います。

 そのことで、もし出版社の淘汰が起きたとしても致し方ないでしょう。結果として新刊点数が減るし、無駄な物流も減り、いい本が長く店頭に置かれるようになります。

 結局、出荷してもすぐに戻ってくるのは「無駄」を刷ってるようなものです。この「無駄」を削減し、その利益を書店や取次に回せばみんな潤います。しかし、いまだに踏み切れていない。おそらくきっかけは輸送費を出版社に転嫁することだと思いますので、ぜひやっていただきたい。


出典: 『文化通信』(2017/5/1)

 2回も・・・ 紙の雑誌の売上低迷により、出版輸送効率が悪化しているが、そのコストアップ分を自ら「出版社に転嫁してほしい」とは恐れ入る。ただ他の大半の出版社がそう易々と受け入れられるとは思えない。

 個人的には、出版社の電子版比率を上げることにより得た経費削減を原資として、出版輸送コストアップ分に充てるようなスキームが実現されるといいと思う。例えばドイツ発祥の「tolino」(書店で電子書籍端末を販売して電子本が売れたら書店の売上となる仕組み)のスキームがヒントになる。

 ドイツの書店は出版社との直取引がメインだから、大手書店チェーンが中心となり、このスキームを実現させた。しかし、日本の場合は出版社と書店の間に取次がガッチリと入っているのだから、取次が主体となって日本版「tolino」を実現させればいい。

 取次には、紙の本だけでなく、電子の本の流通も担って欲しい。
 なぜなら、書店・出版社に対して一番ニュートラルなプレイヤーだからだ。

 取次が端末を書店に卸し、書店が端末を売る。読者は書店に足を運び、紙か電子いずれかの本を買うことができる。電子版が売れた場合でもちゃんと書店の売上となる仕組み・・・ 

 出版社は取次や書店に遠慮することなく、電子化を進めることができ、電子版比率のアップにより経費を抑制できる。しかし結果として、取次の紙の本の物流コストがアップする・・・

 だからこそ、このコストアップ分を出版社に負担してもらう、という考え方が自然に思うのだ。ちなみに、私が考える理想のリアル書店の姿はこんな感じ。これこそ究極の【読者目線】のサービスではないだろうか?(素人アイデアで恐縮)

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posted by 鳴海寿俊 at 16:17| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | 更新情報をチェックする
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