2015年05月24日

『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』 日本製紙・石巻工場の再生エピソード

4152094605紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている
佐々 涼子
早川書房 2014-06-20

by G-Tools

 製紙工場の復活というテーマがテーマだけに、出版業界でも話題となった本書。遅ればせながら読了。改めて東日本大震災の悲劇を目の当たりにした気がした。書籍という形で再生の記録を世に知らしめることの価値は言うまでもなく、普段何気なく手にしている本の材料となっている " 紙 " がいかに技術力の粋を集めたものだということが分かり、学ぶべきものが多かった。

 著者は佐々涼子氏。『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』 が第10回開高健ノンフィクション賞を受賞し話題となった作家である。

 工場の再稼働を目指す現場従業員の奮闘ぶりには涙腺がゆるみ、嗚咽をこぼしながら読んだのは事実。ただ同じ震災をテーマにしたものなら、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(門田隆将著・PHP研究所/鳴海の紹介記事は こちら)の方が従業員が命がけな分だけ目頭が熱くなったように思う。感動のノンフィクション本であることは間違いないなのだが・・・ 何かしらの違和感を感じ取ってしまったのは、私自身が紙の本に対してそれほど思い入れを感じていない(むしろ別ものである電子書籍の価値を実感し更なる普及を望んでいる)からかも知れない。

 本書を通して、気づいたこと、思い浮かんだことを書き綴ってみようと思う。

 まず本書が生まれたきっかけである。読者としてはまえがきか前半あたりで触れて欲しいところだが、終盤にその経緯が書かれている。

 この本が生まれたいきさつをここで記しておこう。これは2012年、震災からちょうど一年後、早川書房の副社長、早川淳(31)が工場に見学に行ったことがきっかけになっている。その時、工場の従業員たちが連れて行ってくれた、石巻や女川の凄まじい街の様子に、彼は何と声をかけたらいいのか、わからなかったという。

「頑張ってください、でもなく、ありがとうでもない」

 その時、言葉は圧倒的な自然災害の前に無力だった。しかし、いつかこの工場の話を、記録として残しておかなければと彼は感じていた。

 明けて2013年の春、私は早川書房のひとりの編集者に声をかけられた。

「日本製紙石巻工場を書いていただけませんか?」

この本を生み出したのは、あの早川が言葉にできなかった、彼の製紙工場と石巻に対する想いである。そしてそれは、出版人として生きている早川書房の社員ひとりひとりの想いでもあるのを、私は知っている。 (p204~205)

 この早川氏の使命感は評価したい。あの震災から4年以上が経過するが、メディアも3月11日前後こそ特集を組んだりしているが、被災の当事者でない限り、記憶の風化は避けられない。各局で相談して時期をずらして年間を通じて特集を組んだりしてくれればいいのに・・・ と思う。そんな中で本書が、被災から3年3ヶ月を経過した14年6月に世に出されたことは非常に意義のあることだと思う。ただ・・・

なぜ電子版でも発売しないのだろうか?

この点が疑問だ。製紙工場をテーマにしている本だから? 電子版を出すと紙の本の売上が減るから? 石巻工場の仕事が減るから? 予想通り巻末には 「本書売上の3%を、公益社団法人 全国学校図書館協議会を通じて石巻市の小学校の図書購入費として寄付いたします」 と寄付に関する記載があった。

電子版なら被災地の子供たちのために購入するのに・・・

本来、支援という気持ち、そして記録として残して幅広い読者に読んでもらおう、という気持ちが強ければ、電子版も同時発売すべきではなかろうか。私だけかも知れないがこの辺に違和感を感じざるを得ない。

(鳴海の参考記事)
買おうとした本が電子化されていないことに気づいた時の残念感【TVドラマ原作本の場合】 
買おうとした本が電子化されていないことに気づいた時の残念感をフローにしてみた【2】 
買おうとした本が電子化されていないことに気づいた時の残念感をフローにしてみた【1】 
【募金活動】と【トイレットペーパーの三角折】の話 

 冒頭、我々が手にしている " 紙 " の本は 技術力の粋を集めたもの であると書いたが、読みながらふと思い浮かんだのが 【イノベーションのジレンマ】 である。よく事例として紹介されるのが、真空管ラジオとトランジスタラジオの話だ。当初は、高価だが音質の良い真空管ラジオが求められていたが、価格の安いトランジスタラジオの性能が向上するにつれ、真空管ラジオはトランジスタラジオに取って代られてしまったという事例を用いて、性能を極めることにこだわり過ぎてしまうと、次の全く新しいイノベーションが登場していつの間に自分たちの地位が脅かされてしまう・・・ というものだ。

 厚手だけどふわっと、強くてなめらか、不透明性が高いけど軽い・・・ とか紙には用途に応じていろいろなタイプがあるそう。「本を見れば自分の工場でつくったものかわかる」 なんて話も紹介されていたが、ひたむきな従業員の姿勢に心を打たれる反面、この 【イノベーションのジレンマ】 が頭をよぎって仕方がなかった。気になったのはある従業員のこの言葉・・・

 衰退産業だなんて言われているけど、紙はなくならない。自分が回している時はなくさない。書籍など出版物の最後のラインが8号です。8号が止まるときは、出版がダメになる時です。ネットが全盛の世の中ですが、もしかしたら、サーバーがパンクして世界中の情報が消失しちゃうということだってあるかもしれないでしょう。その日のためにも、自分たちが紙を作り続けなければと思っています。

 娘とせがれに人生最後の一冊を手渡すときは、紙の本でありたい。メモリースティックじゃさまにならないもんな。小さい頃から娘を書店に連れていくと、「おとうの本だぞ、すごいだろう」 と自慢をするんですよ。だから娘は言ってくれる・・・」

 そこまで憲昭が語ると、それを隣で聞いていた礼菜はまぶしそうに笑って、その言葉を継いだ。

「本はやっぱりめくらなくちゃね・・・。お父さん」 (p258)

 「紙はなくならない」とは思う。でも紙の本の使い道としては、プレゼントやコレクションとしての用途でしかなくなるかも知れない。「自分が回している時は(紙はなくならない)」 と自分の生きている時代のことだけを考えているような口ぶりが、涙腺がゆるみみかけた私に冷静さを取り戻させる。工場の職人という立場ならこのような考え方は許されるのか・・・ 仮に製紙事業自体が無くなったとしたらこの親子はどうなるのだろうと変な心配をしてしまう。

 富士フィルムは写真事業の消滅の危機を脱し、いまやスキンケアや医薬品の分野に華麗に転身し、成功しているのは有名な話である。おせっかいながらも、石巻工場を有する日本製紙には、足踏みしている出版業界と心中して欲しくない。工場で働く従業員の方たちは誇りを持って、品質の良い紙を作り続けて欲しいが、しかるべき人が製紙事業の技術を別事業に転用できないか検討を進めていることを祈るばかりである。

 最後に余談だが、本書には 「居酒屋店主の証言」 という章を確保して、電気も電話もつながらない被災直後の商店街の無法地帯ぶりにも触れている。国内だけでなく、世界中のメディアにも、礼儀正しく助け合っている被災者(日本人)の姿が美談として紹介されていたが、実際は美談だけではなかったことが明かされている。相次ぐ強奪(それも家族ぐるみ)、助成金目当てのNPO団体やボランティアの実態など・・・ ノンフィクションだからこそ、お涙頂戴だけで終わらず、良いところも悪いところも書かれている点は評価できる。

 結局、本書は買わなかった。それは紙の本しか出ていないからだ・・・ 紙の本には 【3重のコスト】 がかかる。繰り返し言うが、幅広い読者に読んで欲しいと思うなら、電子版を出すべきである。本書(紙)を買っても、寄付は数十円にしかならないので、本の値段+αを「東北の子どもたちの夢と希望をはぐくむ(東日本大震災復興支援財団)」に寄付することにした。

やっぱりお金ではなく現地に行って体で何かしてあげたいのだが・・・ 
これが今の私の落としどころ(佐々氏の印税の足しになっていないのが申し訳ない)。

Yahoo! JAPAN 復興支援 東日本大震災

(鳴海のボランティア体験記事)
 東日本大震災 ボランティア @岩手県釜石市鵜住居町(2012/9/25~27) 

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posted by 鳴海寿俊 at 17:03| Comment(0) | 【書籍】 出版業界・読書全般 | 更新情報をチェックする

2015年02月01日

『本屋図鑑』 味わい深いイラストで行った気になる、いや絶対行きたくなる本屋さんの図鑑

4904816099本屋図鑑
本屋図鑑編集部 得地 直美
夏葉社 2013-08

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 Kindleを買ってから、リアル書店に足を運ぶ機会がめっきり減った。いや、その前からかも知れない。駄本ばかりの出会いに愛想を尽かし、図書館で借りて気に入った本だけを買う、というスタイルに変えてからかな。

 だってしょうがないよね・・・ フッたのはそっちが先なんだから。少しでも売上貢献(私ひとりの購入額など知れているが)と迷ったら買うというスタイルだったのに。これだけ裏切られ続けていたら、【3重のコスト】には耐えらない。

(鳴海の関連記事)
 ・ 本作りに携わる人たちに知って欲しい読者が支払う 【3重のコスト】 
 ・ 書店で見つけた "99%" の人が「アレっ?」と思うタイトル・キャッチコピー 
 ・ 勝負は本の中身で! 加速する女性著者のビジュアル化路線 

 でもまた少し事情が変わってきた。「どうしてこんな駄本が生まれてくるんだろう」 という疑問から、出版業界に興味が湧き、「読書」や「本」自体について書かれた本ばかり読むようになった。すると多少は業界の事情も分かるようになり、不思議なことにあれほど不信感が募っていたのに、応援したいという気持ちが再び芽生え始めたのだ・・・

・・・そんな心境の変化の過程で見つけた本書。すごく優しい感じがした。イラストがそう感じさせているのかも知れない。鉛筆で書いたような味わいのあるシンプルなイラスト。あたたかい感じ。何度もめくりたくなる本。

 お世辞抜きでこんな本は初めてかも知れない。

 以前このブログでも取り上げたことのある、さわや書店フェザン店も紹介されており(行ったことがないので)、時代小説の棚はこんな雰囲気なんだ! と少し感動した。

(鳴海の関連記事) さわや書店フェザン店/田口幹人氏について
 ・ 田口幹人氏 「『本屋とは商売』それを聖域に持っていくことは気になる」 
 ・ 『「本屋」は死なない』 廃れていない書店員のプロ根性

 「図鑑」 というだけあって、業界のことや書店員の仕事についても、イラストを織り交ぜながら説明されている。きっと「本屋さん好き」にはたまらない1冊だろう。

 どんな人が書いたのだろうかと、ネットで調べてみると、どうやら出版元の夏葉社は、島田潤一郎氏ひとりだけの出版社らしい。webには、初著書の 『あしたから出版社』 のまえがきが紹介されている。力強さというよりは、" 弱さ " が感じられる文章の中に " 生き抜いていこうとする覚悟 " のようなものを感じ、応援したいという気持ちがわきあがる。

 ひとり出版社、夏葉社(=島田潤一郎氏)の目的は

 ひとりの読者が何度も読み返してくれるような本を
 作り続けていくこと


だという。今後着目していきたい。

(関連web)
 ・ 夏葉社 ホームページ 
 ・ みんなと同じ働き方はあきらめた。(島田潤一郎氏) 

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posted by 鳴海寿俊 at 09:32| Comment(0) | 【書籍】 出版業界・読書全般 | 更新情報をチェックする

2015年01月03日

『「本が売れない」というけれど』②  本は【所有】から【体験】【消費】へ

459114223X(046)「本が売れない」というけれど (ポプラ新書)
永江 朗
ポプラ社 2014-11-04

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※本書紹介記事のパート①
 「10年後、50年後、100年後にあらわれるかもしれない読者のために」 は こちら

 本が売れなくなった理由として、永江氏の分析が非常に的確だなと感じたので紹介しておきたい(前回記事は こちら )。私は本書を【超】がつく良書と書いたが、その理由の1つとして、私の(今まで気づいていなかった)偏った考え方を指摘してくれたことを挙げた。私は本書を読むまで、本が売れなくなった理由は

 買うに値する商品価値の高い本が少なくなったから

と考えていた(その経緯については 【連載コラム】ビジネス書に対する接し方が変わってしまった! を参照)。この考えを完全に訂正するつもりはないのだが、永江氏が述べる環境変化による影響の方が大きいのかも知れないと思い始めたのだ。永江氏は新刊書が売れない理由として、読書環境の多様化を挙げている。

 読者にとっては1冊の本を買う際に、「ブックオフで買う」という選択肢が増えた。単行本のほかに文庫も出ている作品なら、単行本の新本、文庫の新本、単行本の古本、文庫の古本という4つの選択肢があるわけだ。(中略)ブックオフが登場したことで、新刊本を新刊書店で買うのは「損だ」と感じる人びともあらわれた。
(p78-79)

 いままでは本を買うと、読み終わっても自宅の本棚に保管していた。また使うことがあるかもしれないからだ。(中略)ところがアマゾンとヤフオク!によってその必要がなくなったというのだ。本が必要になったらアマゾンやヤフオク!や「日本の古本屋」や「スーパー源氏」で検索すればいい。すべての本が必ず見つかるわけではないが、たいていの本は見つけられる。そして、読み終わった本はブックオフやヤフオク!で売ってしまえばいい。また必要になったらネットで探せばいい。
 こうして日本人の本に対する感覚が少しずつ変容していった。いってみれば本は「所有」するものから「体験」するもの、あるいは「消費」するものに変わった。物体として所有するのではなく、読むことを体験し、情報として消費するのだ。
(p79-80)

 2000年、全国の公共図書館の数は2639館だった。2013年は3248館にまで増えた。約600館も増えたのだ。個人向け貸出冊数は5億2357万冊から7億1149万冊に増えた。ちなみに新刊書籍の推定販売部数は2000年が7億7364万冊で、13年は6億7738万冊。10年に販売部数を貸出冊数が抜いている。つまり、いま日本人にとって最大の読書インフラは新刊書店ではなくて図書館である、とすらいえるのだ
(p81-82)

 ブックオフの誕生は1990年、ヤフオク!が1999年で、アマゾンは2000年である。これらのサービス開始に加えて、バブル崩壊以降の長期不況によって所得が減っていることも、新刊書を買わなくなった理由ではないかと永江氏は述べている。

 読書は「所有」から「体験」「消費」へ

この感覚の変化がじわりじわりと進行してきたのである。永江氏はこの状況について、所得減で「買えない」ではなく、「買わない」のだと述べる。私もそうである。本の購入には3重のコストがかかるのだから、よほど買う価値が高くない限り買わない。

(鳴海の関連記事)
 本作りに携わる人たちに知って欲しい読者が支払う 【3重のコスト】 

 先ほど私は新刊書が売れなくなった理由を「買うに値する商品価値の高い本が少なくなったから」と考えていたと書いたが、本来であればこの出版不況にあえぐ前に、読書環境の多様化に気付き、以前よりも高い商品価値の本を意識して作るべきだったのではないか。

 しかし、読書が「所有」から「体験」「消費」に変わってしまったとしてもチャンスはある。以前はモノ(カタチのある現物)に対する対価としてお金を支払うという感覚だったが、もはやこの感覚は薄れ、カタチのないサービス、つまり「体験」や「消費」に対して抵抗なくお金を支払う時代になった。一部の若者は紙の本を読むことには抵抗感を抱いても、スマホやタブレット等の電子機器の画面を通してなら、ストレスなく自然に読書をするのかも知れない。

 前回記事 でも紹介したが

 ぼくたちのメディア環境、情報環境が変化していければ、「本」もまた変わっていく。ぼくたちが守らなければならないのは、そのような未来のかたちも含めた「本」であって、現在の本やそれを生産したり流通させたりするシステムではない。「本」をめぐる思考は、常に未来に開かれなければならない。
(p234-236)

 いまの「紙に印刷して綴じて表紙をつけた」本という形態にこだわってばかりではいけないのである・・・ って私は当事者ではないのだけど。私の最近の読書はもっぱら、図書館で借りるか、Kindleで電子版を読むか。出版業界が崩壊してしまうと、そのどちらも叶わなくなるので、早く再生してもらいたいと読者として切に願う。

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posted by 鳴海寿俊 at 20:58| Comment(0) | 【書籍】 出版業界・読書全般 | 更新情報をチェックする