2016年05月17日

書店「政府の<最低賃金>に悲鳴」(新文化16/5/12)記事に対する違和感

 業界紙『新文化』16/5/12号の記事、「社長室」。見出しはこう。

政府の「最低賃金」に悲鳴
「これ以上は無理」と書店社長

「書店はいま、政府によって毎年上昇し続けるパート・アルバイトの『最低賃金』に悩まされている」

という件で始まる記事に、思わず溜息が出た。
次にこう続く言葉にも・・・

「店頭売上げが低迷するなか、厚生労働省が容赦なく取り決めるこの最低賃金が書店の経営を圧迫し、パートすら十分に雇用できない現状であるという」

そしてこんな記事の締め括られ方に・・・

「書店の売上げは『人』次第といわれるが、その生命線が揺らいでいる」

唖然とした。これに込められた、新文化・丸島基和社長のメッセージは、政府に対する不満以外は私には感じ取れない。政府が定める最低賃金(しかも罰則のある法的拘束力のある取り決め)すら守れない、書店や業界はしかるべき末路を辿るのではないか。「標準」や「平均」ではないのだ、「最低」賃金なのだ。

「東京都の最低賃金は2005年に時給714円で、16年には907円に上昇。この11年間で193円増加した」

とあるが、それはどの業種・業界でも同じこと。いや、同じではない。本は定価で販売することが国によって守られている・・・ にも関わらず、この言葉を堂々と公言することに対する、私の違和感は怒りに近い。パートやアルバイトで書店で働こうとする従業員は、自分たちの業界に大いに売上貢献してくれる大切な読者であろう。他の仕事の給料や条件はもっといいだろうに・・・

 それでも最低賃金で書店で働こうと考える人は本好きな人たちのはずだ!

 最低賃金でも働こうとする彼らを応援すべき立場ではないのか!?

 向けるべき矛先がおかしい・・・

 身を切るべきは自分たちではないのか!?

 給料は多少はずむから「みんなで本を買おうよ」とか、そういうプラスのサイクルに持っていこうとすべきではないのか・・・ それを業界人に多大な影響を及ぼす業界紙が他力本願(政府を非難/救済を期待)なメッセージを発して何になるのだろう。既に再販制度で守られ続けてきた業界であることを重々認識すべきだと思う。

 少なくとも、こんなメッセージを述べてくれる、『文化通信』の取締役編集長・星野渉氏であれば、違った見解を示してくれるはずだ。

「出版業界は、ややもすると『読書離れ』などといって、『読まない者が悪い』といった切り捨て方をするが、『読まれない物が悪い』と考えて、出版物に新たな価値を付加するような業界としてのアプローチも必要ではないか」 (星野氏)

『文化通信』 2012/9/10号「出版時評」より

 業界紙は業界紙である以上は、その業界を応援する記事を書いて欲しい・・・ これは私の素直な気持ちだけれども、麻痺した感覚を目覚めさせることも必要ではないか。国やamazon、電子書籍を非難しているだけで、その業界紙の購読者(多くは書店や出版社)が幸せになれるのか? 考えてみて欲しい。

 偉そうに何を! と思われるかもしれない。でも冷静にこの業界を見つめている(応援したいと思っている)購読者がいることは、『新文化』の記事を書いている方々には決して忘れて欲しくないし、もう一言偉そうに言わせていただくとしたら、他の業界と比較してどれだけ特殊な業界であるかをふまえて、メッセージを発信してもらえると嬉しい。

 そういう意味で、一見すると身内批判とも取れるメッセージを躊躇なく(?)発信している、星野氏に対しては心から敬意を表したい。

 そして私は読者として、身内批判を恐れない彼らを応援したい。

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2016年05月10日

元リブロの辻󠄀山氏の「Title(タイトル)」@荻窪に行ってきた


 業界紙『文化通信』増刊の『文化通信bBB』(16/4/25号)の表紙を飾った、「Title(タイトル)」という名の書店。元リブロ池袋本店で統括マネージャーを務めていたという辻󠄀山良雄氏が今年1月にオープンさせた書店だ。

Title_photo.jpg

( 「写真撮らせてください」という勇気がなく、外からの店構えの写真のみ。
 店の雰囲気は こちら にオープンまでのエピソードとともにたくさん掲載されている)

 JR中央線の荻窪駅から徒歩10分ほど。「八丁」というバス停のそばと書かれていたので、行きこそバスで行ったが、じゅうぶん徒歩圏内。内装はというと

 そんなお金もなかったので建物の躯体には手を入れてはいません。雨漏りがしていたのは大家さんが直してくれて、畳が腐っていたので床は貼りましたが、壁は耐火ボードとクロスを貼り、天井は剥がして拭いただけです。

(『文化通信bBB』16/4/25号記事より。以下同)

との辻󠄀山氏のコメントを読んでいただけに、全く期待はしていなかったのだが、木の温もりを感じるやさしい雰囲気で良い意味で期待を裏切られた。たぶんセンスがいいのだと思う。それは品揃えからも感じられた。私が語れるのはあくまでも読者目線。業界人や本好きを公言する紙の本オタクのそれとは違う(と自負している・・・ つもり)。

そもそもなぜ足を運んでみようかと思ったか?

 基本的に私は出版業界でしか仕事をしたことがない人間は好きではない。なぜならどれだけ守られ続けてきた業界なのかを認識していない人が多い印象があるのと、「文化」としての本という大義名分を振りかざしている割には、平気で 売れたモン勝ち の二番煎じ三番煎じ本を出している作り手がいて、それを平積みにしてとっかえひっかえ並べている売り手が多く見受けられるからだ。

(本来は、子供に読ませる児童書、学生や研究者たちが読む専門書、ビジネス書、コミックなど・・・ 市場拡大のために取るべきアクションはジャンルごとに違って当然なのに、一緒くたに問題が語られがちなのも嫌い!)

 でも辻󠄀山氏のコメントは、これらの私の(ある意味身勝手な)偏見を覆すかのような、フツーの読者の感覚を理解してくれているようなコメントで好感を持てた。

 私の出身が大型書店ということもあり、セレクトショップを見ていて本の種類が少ないと感じていました。それよりは棚に1冊ずつ並べてあって、選択肢が多い方が買ってもらえると思います。商品の種類はあるに越したことはないでしょう。

(辻󠄀山氏コメント)

 私も話題となった何店かのセレクトショップを見に行ったことがあるが、物足りない印象を毎回抱いていた。しかし、「Title(タイトル)」については違った。20坪のスペースに約1万冊という在庫は、私の好きなビジネスの他、児童書あり、アート・建築系の本ありで、文庫や新書のラインナップの充実ぶりにはびっくりした。

 読み慣れているビジネス書に関して言えば、(こういう表現は通っぽくて嫌いだが)話題の新刊をおさえつつも、巷の書店では見慣れない本だなと思って手にとってみると、数年前の本だったりするが、良書なのに日の目を見ずに消え去ってしまったような掘り出し物を発見したり・・・ と、とにかく魅力的な品揃えだった。実用書っぽいものは限られており、仕事に対する価値観であるとか、生き方に関するテーマが多かった気がするが、これがまた私の好みにフィットしていた。

 こういう店でもやはり新刊が売れます。お客さんは本好きな人が多いですが、棚をご覧になって、ジャンルの定番などがしっかり揃っていることを評価していただいても、結局はまだ持っていない新刊を買うといった感じです。

 ですから既刊でよい棚を作ることは重要ですが、やはり新刊をちゃんと追いかけて並べることも大事です。

(辻󠄀山氏コメント)

 私もビジネス書だけは定番本が分かるつもりなので、その品揃えに安心感を抱いた上で、見慣れない既刊本の方に興味がいってしまったのだ。セレクトショップの店主の中には、新刊にこだわらずに、長く売れる良書を売りたいという人もいるが、新刊をじっくり吟味して過去の良書と比較した上で主張しているかどうか疑問だ。もし売れている新刊だけを(自分の目利きではなく市場の評価に委ねて)チェックするというスタンスだとしたら、それは書店員としては怠慢だと思う。

 オールジャンルを扱う書店であるならば、年間8万点も出ると言われる新刊をふまえた上で、過去のロングセラーだけでなく、未来のロングセラーをいち早くキャッチして読者に届けて欲しい。それを長く売れているものだけ取り扱うというスタンスはいかがなものか・・・

 そういう意味で、日販から仕入れるメリット(新刊やベストセラー情報の提供や地方の小規模出版社の本の取り扱いなど)を享受しつつも、刊行点数が少なくて1点あたりの売上冊数の多い出版社は直取引をする、といったビジネスをするにあたって当然のドライな判断も、身内(出版業界)ではなく、読者の方を向いている気がして非常に好感が持てた。

 よく本屋のイノベーションといったテーマで話を振られたりするのですが、そんなつもりはありません。儲けるためにコストを下げるテクニックは考えますが、売り上げを作らなければコストを下げたり歩率を上げても意味がありません。

 例えば本の情報をSNSでどんどん発信するといったこともしますが、小売業なら扱っている商材の良さや使い方を発信するのは当たり前であって、小売としてやってしかるべきことをちゃんとやる。その努力をしているだけです。

(辻󠄀山氏コメント)

と頼もしい。フレンチトーストは評判とのことで食事も・・・ と思ったが、初来店でいきなり食事も少々抵抗があり、1冊だけ購入するにとどめた。自宅から比較的近い距離なので、何回か足を運んで、会話でもできるようになったらいいな。

 でも、やっぱり本はできればkindleで読みたいと思いつつも、同年代の辻󠄀山氏を応援したいと思い・・・

(鳴海の関連記事)
 ・ 未来の【書店員】と【客】との会話はこうなる!?
 ・ 出版業界を変えてくれそうなキーパーソン

 複雑な気持ちを抱きながらの帰り道。これまた店構えに惹かれた「Title(タイトル)」の隣(隣の隣?)の蕎麦屋で遅めのランチ。こちらはこちらで親子2代で営んでいるのか、店に入るとちっちゃなお孫さん(?)が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた、アットホームなお蕎麦屋さん。荻窪っていいなぁ~ そんな親しみを感じたゴールデンウィークの最終日の午後であった。

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鴨せいろを注文・・・ @桃蕎庵こばやし

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posted by 鳴海寿俊 at 00:22| Comment(0) | 書店・書店員(売り手) | 更新情報をチェックする

2015年05月18日

さらば 「池袋リブロ」

 今朝の日経新聞の朝刊「池上彰の大岡山通信」。間もなく閉店するリブロ池袋本店についての池上氏のコラム。池上氏によれば

「この書店、他の大型書店と同様に多数の書籍を並べているものの、品ぞろえには独特のものがありました」

「『誰が買うんだろう』と思うような高価な専門書が並ぶこともあれば、書店がテーマを決めたブックフェアも実施され、立ち寄るたびに新たな発見がありました」


との評価。これは本好きにとっては魅力的かも知れないが、継続できない以上はビジネスとして失敗したと言わざるを得ない。池上氏の

「『売れる本なら何でもいいだろう』とばかり、世のブームにおもねった本ばかりを並べた書店に出くわすと、店長や書店員の志を疑い、早々に店を出てしまうこともあります。その一方、『この本を売りたいんだ』という志が見える棚があると、嬉しくなって、つい店内に長居をしてしまいます」

の気持ちもよく分かる。でもボランティアではないのだから、やはり池上氏だけでなく(私も含め)読者の期待に応えながらもビジネスとして成立させられなかった責任は書店側にある。

 リブロ池袋本店が出店していたのは、セブン&アイ・ホールディングスの傘下の西武百貨店。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長の出身企業は出版取次のナンバー2のトーハン。ちなみにリブロの親会社は出版取次のナンバー1の日販で、トーハンのライバル。テナント料の高い敵陣に店を構えて、いずれは撤退を迫られるという業界関係者の話も出ていたようだが・・・ そんな内輪の事情は関係ない!

そんな事情は初めから分かっていたはずだ。

考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 
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考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 考えろ! 
(これ以上続けると、情緒不安定と言われかねないので)

電子書籍の価値を認識しつつも、リアル書店存続を願う読者の気持ちを
代弁したいのだが・・・ 

 出版業界を変えてくれそうなキーパーソン

の活躍に期待するしかない。

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posted by 鳴海寿俊 at 23:43| Comment(0) | 書店・書店員(売り手) | 更新情報をチェックする