2017年03月29日

出版社が書籍の電子化に踏み切れない理由とは?

 読書はよほどの理由がない限り、電子版で読むと決めている私。

 以前の記事「買おうとした本が電子化されていないことに気づいた時の残念感をフローにしてみた」でも述べたが、テレビや新聞広告などで紹介されているのを見て、「さぁ(電子版を)買ってすぐ読もう」と心は決めたのに、紙版しか出ていないことを知った時の残念感ったらない! 何、このチャンスロスは!?

 私は、新刊の発売と同時に電子版が出されないことに対して、今までずっと【出版社の怠慢】だと思い込んでいた・・・ これだけ読者や読書のスタイルが多様化してきているのに、なぜ電子版で読むという【選択肢】を提供してくれないのか? 驚きを超えて不信感が募っていた。

 しかし、ブログ「京都から世界へ -藤田功博の京都日記-」の以下の記事をふと見つけて読んだ時、出版社に対して同情にも似た感情が沸き、自分の考えを少し改めることにした。2012年と少々古い記事ではあるが、記事の一部を引用してご紹介する。

「121201 出版社が電子出版(電子書籍)に踏み切れない3つの理由」
(2012年12月01日 09:00)

出版社が電子書籍の制作を躊躇する理由

@ 見かけの売上高が減る
「出版社の経営者としては、電子書籍での販売「額」が紙媒体よりも多くなる、つまり、全体の販売数が大きく伸びて、単価値下げ分を相殺できるという確証が持てない限り、電子書籍に取り組むインセンティブが弱い」

A 「カラ売り」による決算ができなくなる
「再販制度をどんどん(悪い意味で)活用していくと、決算前の直前、たとえば3月に大量の新刊を出し、書店に仕入れてもらっていったん仮の売上と利益を計上する。そして決算期をまたいでから返本を受け付けて、そこで損失を計上するのだ。そして次の3月が来たら、また大量の新作を出すということを行う。これを僕は「出版社のカラ売り」と呼んでいる。(中略)電子書籍の時代になれば、売上は全部クリアになる。電子的に、売上が発生したら金額と時間がはっきり出る。再販制度を利用した上記のような「カラ売り」はできなくなる」

B カラ在庫によるバランスシートの偽装ができなくなる
「売れそうもない本でもたくさん印刷すると、期末時点での棚卸資産が増え、当期の販売原価が押し下げられ、帳簿上の利益が増えるのだ。事業上の累積損失が膨らみ、バランスシートが悪化するのを防ぐために、このような方法が使われやすい。(中略)いずれにしても、紙媒体のときには可能だったテクニックが使えなくなる」

(出典) ブログ「京都から世界へ -藤田功博の京都日記-」

 出版社が電子化に踏み切れない理由が、単なる怠慢ではないことが大変よく分かった。その他、財務的なこと以外に、実務面においても電子化することのハードルが高いことに、こちらのブログ「“俺が出版とかマジ無理じゃね?”」の以下記事からも気づかされた。

「電子書籍は儲からないわww【出版社編】←あと5年はかかるでしょ」
(2015/5/15)

紙媒体と電子書籍を同時に作成するのは意外と面倒くさいです。

読んで字のごとくです。
データ作成を内製している出版社が、電子書籍のデータも同時に作るのは、実はかなり負担が大きいです。

基本的にページ物の出版物を作る場合、Adobe社のInDesignというソフトを使用することが多いと思います。
このInDesignには、作成したデータを電子書籍データに書き出す機能があるのですが、正直この機能はそこまで優秀ではないです。
そのまま書き出しただけでは到底商品として耐えうるレベルではなく、確実にそこからの修正作業が発生します。(中略)

DTPデータから作るのが意外と面倒な電子書籍ですが、さらに問題なのが紙媒体より安くないと売れないことです。

「印刷用の書籍データがあるのだから電子書籍データを作るのは簡単」
「だから電子書籍は紙媒体より安くて当たり前」

電子書籍に対してはこういった考えが主流です。必ずしもそうでないのは前述した通りです。
ですが世の中の流れからいっても、電子書籍を売るためには販売価格は紙の書籍よりも抑えざるをえません。

また、実体のない「電子データ」にお金を払いたくないという層も一定数存在し、「デジタル情報=無料であるべき」といった考えが根強いのも原因の一つといえるでしょう。

もっと極端な意見として、
「紙の書籍の販売開始と同時に電子書籍も無料で添付すべき」
といった声も普通に聞こえてきます。
さすがにこれは暴論すぎるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

(出典) ブログ「“俺が出版とかマジ無理じゃね?”」

 また同ブログの以下記事からは、出版社のやるせなさが伝わってくる。

「儲からない電子書籍」未来はどっち? 【出版社編】
(2015/5/17)

紙媒体の発売と同時に電子書籍を出すのが案外難しいことは「紙媒体と電子書籍を同時に出すのは意外と面倒くさい」で申し上げた通りですが、仮にその部分をクリアできたとして「どこで売るか?」という問題が立ちはだかります。

ある程度の販売数が必要な電子書籍を売る方法としてパッと思いつくのが、AmazonやGoogle Playなどの有名オンラインストアでの販売です。他にも探せば大小さまざまなオンラインショップが見つかりますし、STORES.jpやBASEなどの無料オンラインショップサービスを使うという手もあります。

ですが、やってみたらわかるのですが、こういったオンラインでの販売はそのままだと確実に埋もれます。
全部が全部ではないですが、著者が有名人であるか内容やタイトルに相当なインパクトがない限り、自然発生的に日の目を見ることはまずありません。

ところが大手と違って多額の宣伝費をかけられない零細出版社にとって、この問題を乗り越えるのはかなり難しいと思われます。
参入障壁が低く費用もほとんどかからない方法として、HPやSNSでの拡散が考えられますが、これもノウハウを持たない零細企業がゼロから始めるには相当の覚悟と時間、そして根気が必要になります。(中略)

「だったらWEB関連を外注すればいい」と思われるかもしれませんが、断言できますが「その費用があったら広告出しとるわww」です。

(出典) ブログ「“俺が出版とかマジ無理じゃね?”」

 これらが全ての出版社に当てはまるのかどうか、私には判断はつかない。しかしながら

●電子化する業務を外注できるような規模の大きな出版社、あるいは内製化できる体制が取れる余力のある出版社でない限り、業務面での負担が大き過ぎて、積極的に取り組めない

●刷って取次に搬入すれば売り上げが立つ紙版と違って、価格の安い電子書籍を積極的に販売することは、売上額も下がるし、自転車操業の中小規模の出版社にはリスクが大き過ぎて、取り組めない


ということが何となく想像できた・・・ ただこれは作り手側の事情。
何とかならないものだろうか。


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2017年03月28日

河出書房新社がエブリスタとコラボ web発短編小説の書籍化チャレンジ

 河出書房新社の小野寺優社長の記事が『新文化』(17/3/23)、『文化通信』(17/3/27)と立て続けに掲載されており、非常に好感が持てたので取り上げたい。前者には、あのロングセラー『大人の塗り絵』が編集会議の俎上に載った時の裏話。そして後者には、投稿サイトエブリスタとのコラボについて、同社の芹川太郎社長との対談記事が載っていた。

大人の塗り絵 日本をめぐる四季の旅編やさしい大人の塗り絵 やすらぎの風景編大人の塗り絵 鉄道のある風景編

「本当にこの本を出したいと思ったら出せる社風がある」

と小野寺氏。ロングセラー『大人の塗り絵』が初めて編集会議で俎上に載った際、「認知症予防に効果的らしい」という情報だけで、参考になる類書すらないため、出席者は20分間沈黙。編集者の熱意を感じた当時の編集担当役員、山本濱賜氏の「まぁ、迷った時はゴーだな」の一言で、現在のシリーズ累計620万部の山がある。

『新文化』(17/3/23)

「迷った時はゴーだな」

これが河出書房新社の社風か・・・

 小野寺社長の言葉ではないが、いい言葉だなと思った。20分間の沈黙の後というのもうなずける(大人向けの塗り絵の本を出そうなんて、そう簡単に思い至らない)。企画を練る際、類書との比較は必ず行われるのだから、その類書が存在しない前例のない本を出すには勇気がいる。チャレンジできるかどうか・・・ 担当編集者は相当の覚悟を持って臨んでいるはずだから、会社として「迷った時はゴー」と言ってもらえる雰囲気・社風には、チャレンジしたいと思っている社員の背中をポンッと押してくれるような安心感はあるだろう。

 小野寺社長は 「看板の文芸、人文はもちろん、エンタメ系の本にも挑戦していく」 と今後の展望を語っている。

 そんな挑戦の1つなのだろうか。河出書房新社は、4月13日取次搬入で短編小説集『5分シリーズ』を発売する。収録作品はエブリスタに投稿された作品。今後も第2弾、第3弾を7月に投入し、継続的な刊行を予定しているとのことだ。

43096121135分後に涙のラスト (5分シリーズ)
エブリスタ
河出書房新社 2017-04-14

by G-Tools
43096121215分後に驚愕のどんでん返し (5分シリーズ)
エブリスタ
河出書房新社 2017-04-14

by G-Tools
430961213X5分後に戦慄のラスト (5分シリーズ)
エブリスタ
河出書房新社 2017-04-14

by G-Tools

 河出書房新社の小野寺社長は、エブリスタとのコラボレーションのメリットについてこう述べている。

 文藝賞をはじめとして、当社は新しい才能を発掘する取り組みをずっと大切にしてきました。

 ただ、エブリスタに投稿してくるようなエンターテインメント系の新しい才能は、やはり純文学、人文というイメージが強い当社にはなかなか集まってこない。

 しかも、もしそういう作品が送られてきたしても、現時点で当社がエブリスタのような視点で作品をセレクトする力を充分に持ち合わせているとも思えません。

 しかし、僕らはそういう作品にもトライしたい。でも、真似をして同じような仕組みを作ろうとしてもうまくいくとは思えない。ならその力を持っている方々と組んで、お互いの長所を生かすことで、いままでとは違ったものを作り、広げることができるのではないか。

 以前、芹沢さんがなにかのインタビューで、ストーリーが面白くても文体が文芸作品の体をなしていなければ従来の文学賞で拾い上げるのは難しいだろう、という趣旨の発言をされていましたが、的確な指摘だと思いました。

 当社は出版社の中では相当、そういう才能を拾い上げてきたと自負していますが、それでも十分ではない。

 ですから、ご一緒することで、そういう作品をさらに拾い上げ、新たな才能に出会えるのではないか、と楽しみにしているのです。

(河出書房新社・小野寺優社長) 『文化通信』(2017/3/27)

 「エンタメ系の本にも挑戦していく」と小野寺社長が述べていた河出書房新社なりの挑戦の仕方が分かったような気がする。

 一方、エブリスタの芹沢社長は紙と電子の競合について次のように述べている。

 競合するとはまったく考えていません。

 そもそもエブリスタの読者の中には、「紙の本を読んだことがない」という方もいらっしゃいます。「小説なんか書いたこともないし、そんなにたくさん読んでないけど、エブリスタを読んでいるうちに書ける気がして」と書き始めた方もいて、とんでもなく面白い作品を書いたりします。

 同時に紙の本を愛読してきた方々にも楽しんでいただける作品も多いので、それぞれ読者に最適な形でお届けしたいと考えています。

(エブリスタ・芹沢太郎社長) 『文化通信』(2017/3/27)

「読者に最適な形でお届け」

という読者目線のスタンスがいい。紙が先とかデジタルファーストだとか・・・ それは作り手の発想。ジャンルは異なるけれども、以前にこちらの記事でも紹介したが、「読者の便を考え、基本的にはすべての書籍で電子版をほぼ同時に発売」 というダイヤモンド社のようなスタンスがこれからは求められるのではなかろうか。

 また「読書」や「書籍」の定義も曖昧になっているので、実態を捉えようとする際には注意が必要となってくるだろう。

 ケータイ小説、ラノベ、投稿サイトなどにおける「読む」行為は「読書」にあたるのか? 投稿サイトに掲載されている作品は「電子書籍」にあたるのか? 電子書籍市場には出版社のコンテンツだけでなく、個人出版のコンテンツが含まれるのか? など。

 『文化通信』の星野渉氏は、同2017/3/27号の「出版時評」でこう述べる。

 出版社は従来型読書を守ることに注力すべきなのか、それとも自ら新しい読書の形に飛び込んでいくべきなのか。答えは簡単そうにもみえるが、明治期に江戸時代の出版者が突如消滅した例を振り返ると、彼我の距離は意外に遠そうだ。

 それでも、この距離を飛び越えていく創業者魂を持った出版人が、次の時代を切り開くのであろう。

(文化通信・星野渉氏) 『文化通信』(2017/3/27)

 少なくとも河出書房新社の小野寺社長には、「自ら新しい読書の形に飛び込んでいく」チャレンジ精神を強く感じた。これからも応援していきたい出版社(者)である。


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posted by 鳴海寿俊 at 23:46| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月12日

中央公論新社「業績復調の背景と上昇戦略」(『新文化』16/6/9号)

 2年連続の赤字に苦しんでいた中央公論新社が、2016年3月決算で増収増益に転じたとの記事が『新文化』16/6/9号の一面を飾った。

 社屋移転、倉庫の統合などの対策は目新しさを感じないが、記事を読む限り、復調の背景は社内の意識改革にあるように感じられた。それは大橋義光社長の言葉からうかがえる。

 販売好調であった3つの要因として、1つ目に「作品力」を挙げては「作家の先生の力」と述べ、2つ目は「書店・取次の支援」のおかげと謙虚な大橋社長。でも私は1つ目も2つ目も、3つ目に挙げている「社員の知恵と工夫、頑張り」が実を結んだのだと思う。

 出版業界の中からは、不況の原因を他者に押し付けるかのような声も聞こえる。本を読まない読者や若者が悪い、読書振興策を強化しない政府が悪いといった論調やamazonに対する規制を求める声などだ。

他力本願の前に自らがやるべきことがあるだろう!? 

駄本を読まされ続けた一人の読者として叫びたい。ただ救いなのは、2年連続赤字という痛みを乗り越えて、自ら律して謙虚に取り組み、意識改革を図っている中央公論新社のような本の作り手がいること。私が今回の『新文化』の記事で着目したのは次の2点だ。

── 年度末の"駆け込み出版"も中止されたと伺いました。

「いろんな統計がありますが、どうも3月期の出版点数は業界全体として多すぎるようです。しかも3月期は決算があり、新年度前。読者の立場に立つと異動や転居もあって、忙しくてお金のない時期で、ゆっくり本を読む環境にはない。加えて教科書や参考書を扱う書店はその準備で忙しい。そう考えると、むしろ刊行点数は少なくすべきと思いました」

(大橋社長コメント)

 いたってフツーの思考なのだけれど、このような冷静な分析とコメントを出版業界の人がしているのは初めて聞いた気がする。私は個人的に 編集者がロングセラーを生み出すことを高く評価し、結果的に新刊点数を減らしつつも売上を伸ばす取り組み を行っているダイヤモンド社の姿勢が気に入っているのだが、中央公論新社含め、このような改革に取り組む出版社が増えて欲しいものである。

 着目点の2つ目は、中央公論新社が「いい本とは何か」を問い直す姿勢があることだ。大橋社長はこう述べる。

 いま、「いい本とは何か」を改めて問う必要を感じています。実はこの4月、企画力アップの方策について社員からアイデアを募集したところ若手社員を中心に50〜60件も集まりました。

「売れないのは読者がついてこないから」

というのは言い訳に過ぎません。しかし読者が求めるものだけを作っていても、新たな気づきや感動を呼び起こす本は提供できない。

 では、そのために私たちは何をすべきか。当社はまじめで堅く柔軟性がないといわれることがありますが、組織のあり方や人材育成まで含めて考え直していきたい。社員から集まったアイデアかは宝の山です。これから一つひとつ磨いて光るものにしていきたいと思っています。

(大橋社長コメント)

 このコメントを読んで、『文化通信』取締役編集長の星野渉氏の言葉を思い出す。

「出版業界は、ややもすると『読書離れ』などといって、『読まない者が悪い』といった切り捨て方をするが、『読まれない物が悪い』と考えて、出版物に新たな価値を付加するような業界としてのアプローチも必要ではないか」 (『文化通信』 2012/9/10号「出版時評」より)

 そう、向けるべき矛先は・・・ 読者でもなければ、政府でもなく、amazonでもない! 自らに向けよ! 読者の一人としてこう言いたい。可処分時間をスマホに奪われない、魅力的な本づくりをして欲しいものである(紙の本にこだわらずにね!)。

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posted by 鳴海寿俊 at 00:20| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする