2017年06月19日

岩崎夏海氏「本はもう世の中に余っているのではないか」(新文化 2017/6/8)

 あの『もしドラ』の著者として一世風靡した、岩崎書店社長の岩崎夏海氏の覚悟のようなものを感じる記事を見つけた。『新文化』(2017/6/8号)の「風信」というコラムである。

 とある出版社の経営者の方がおっしゃったという

「本はもう世の中に余っているのではないか」

「世の中にはすでにもう十分素晴らしい本があり、それらを読むのだけでも忙しい。そういう状況で本を出版するのは屋上屋を架すことに他ならず、つまりは余計なことをしているのではないか」


という言葉を受けて、岩崎氏は「ぼくもそう思う」と重ねる。そして岩崎氏は自らの言葉でこう言い切る。

「世の中に本はもうすでに十分にあり、これ以上出すことの価値は薄い。昔、本が足りていなかった時代には作ることそのものに価値があったが、本余りの今の世の中においては本を出すことそのものにネガティブな意味が発生するから、よっぽど慎重に構える必要があるのだ」

(岩崎夏海氏)

 出版社の使命は本を世に出すことであるはずなのに、この言葉は重い。いや、それくらいの気概を持って本をつくらないといけないのだ、という覚悟を強く感じる言葉だ。

 かつて高度経済成長期は、モノが足りなかったため作ればいくらでも売れる、作ったものを売りさばく「プロダクトアウト」が主流の時代であった。大量生産の末、過剰供給となった結果、時代は顧客目線に立った「マーケットイン」の考え方に移り変わっていった・・・

 本の業界はどうか。二番煎じ三番煎じ本を大量に世に出し、とっかえひっかえ新刊を並べては、大量に返品する。いまだ旧世代の「プロダクトアウト」を地でいっているようだ。

 ちなみに「マーケットイン」は顧客の【顕在化】しているニーズに対応するものであり、発展的な「プロダクトアウト」は顧客の【潜在化】しているニーズに対応する試みである(iPhoneなどが有名な例。誰もタッチパネル式の携帯電話が欲しいなんて口にしない状況で、顧客の潜在的なニーズを汲み取った発展的な「プロダクトアウト」の事例)。

※参考web: b→dash Marketer's Compass(2016/6/14記事)
 【顧客の考えが全てなのか?】プロダクトアウト or マーケットイン

 岩崎書店では出版点数を減らすことを1つの目標としている。そしてこれまでの世の中になかった「新しい本」を作らなければならないと岩崎氏は述べる。

「児童書の出版社はえてしてこの『現代をとらまえる』というのを苦手にしている。しかしそもそも児童書というジャンルが生まれたときにはそれ自体が当時の現代をとらまえた新しいものだったはずで、我々は今一度その精神を呼び覚まさなければならない。

いっそのこと新しいジャンルを作るくらいの気概で臨まなければ、生きてはいけないのである

(岩崎夏海氏)

 「児童書」における【顕在化】しているニーズをとらまえた「新しい本」ではなく、【潜在化】しているニーズを発掘して、まさに「新しいジャンル」を作る「プロダクトアウト」を実践し、是非とも業界の変革の一役を担って欲しい。




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タグ:岩崎夏海
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2017年05月07日

書協『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』過去調査からの推移分析(3)

書協『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』過去調査からの推移分析(3)

→→ つづき(はじめから読みたい方は こちら )

設問5.電子書籍について(雑誌は含めない)

(1)電子書籍を刊行していますか。

 ① している ・・・ 167社 (有効回答出版社: 231社のうち、72.3%)  
 ② していない ・・・ 62社 (有効回答出版社: 231社のうち、26.8%
 ③ 記入なし ・・・ 2社 (有効回答出版社: 231社のうち、0.9%

 【刊行していない理由】
 ・ 採算がとれない (6社)
 ・ 今のところ必要なし (5社)
 ・ 準備中/検討中(5社)
 ・ 販路が整っていない (4社)
 ・ 手が回らない (4社)
 ・ 商品群の性質上、電子書籍に適するものがないため (4社)
 ・ 著者との調整ができていない (1社)
 ・ データの統一性に不安 (1社)
 ・ 「紙」あっての本と考えるため (1社)


出典: 『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』

 出版社が書籍の電子化に踏み切れない理由については以前、こちらの記事でwebで得た情報を紹介したが、今回公式な調査結果に触れることができて良かった。

 出版社に配布されたアンケート用紙が掲載されていない(第3回・2005年以降)ので推測ではあるが、理由は複数回答であろう。「採算がとれない」という理由は死活問題に関わるので仕方ないにしても、回答数が少ないとは言え、「今のところ必要なし」「準備中/検討中」「手が回らない」 が上位に来ているのは、電子派の読者をないがしろにされているようで非常に残念である。

設問5.電子書籍について(雑誌は含めない)

(2)刊行のタイミングについてご記入ください

 (対象出版社:167社)

 ● 新刊はほぼ紙版書籍の発行と同時 ・・・ 35社
 (対象出版社: 167社のうち、21.0%) 

 ● 紙版書籍刊行後 1~3カ月後 ・・・ 21社
 (対象出版社: 167社のうち、12.6%) 

 ● 紙版書籍刊行後 6カ月後 ・・・ 8社
 (対象出版社: 167社のうち、4.8%) 

 ● 紙版書籍刊行後 1年 ・・・ 5社
 (対象出版社: 167社のうち、3.0%) 

 ● 紙版書籍刊行後数年経過後 ・・・ 4社
 (対象出版社: 167社のうち、2.4%) 

 * 時期が不確定な回答は割愛


出典: 『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』

 ダイヤモンド社のように紙版と電子版を同時発売する体制を整えている出版社は21.0%とのこと。

 ただし、この数字は電子書籍を刊行している出版社167社に占める比率であるから、電子書籍を刊行していない出版社を含む全体(有効回答出版社: 231社)に占める比率は15.2%にまで低下する。

 紙版刊行後3カ月以内(35社+21社=56社)にまで広げても、24.2%にしかならない。

 これではいざ、話題になったり、ランキング上位に入ったとしても、電子派の読者は待ちきれず、チャンスロスとなってしまうだろう。

 ちなみに私は「Kindle Alert beta ver.」というサービスを使っている。まだ使い始めたばかりだが、Kindle で読みたいその本、Kindle に対応したら Twitter でお知らせしてくれるので有難い。

 今回ご紹介した『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回) 』は、書協(日本書籍協会 )という言わば業界の身内が行った調査ではあるが、読者目線で分析すると新たな気づきがあった。不定期の調査のようなので、次がいつになるか分からないが、継続的にウォッチしていきたいと思う。

 そしてこれからも読者のために、出版業界を変えてくれそうなキーパーソンたちをこのブログで応援していきたい。


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posted by 鳴海寿俊 at 22:31| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | 更新情報をチェックする

書協『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』過去調査からの推移分析(2)

→→ つづき(はじめから読みたい方は こちら )

■出版企画について

設問1.出版企画について

(7)単行本の企画から刊行まで、どのくらいの期間を要しますか。


shokyo02.jpg

* 第1回、第2回は自由回答(第3回以降はアンケート用紙が掲載されていないが回答を選択肢から選ぶ方式と推測)のため記述はバラバラであるが、「最短」だけは矛盾なく、第3回以降の期間に当て込むことができたので集計を行った上で表に埋めた。「平均」と「最長」については、第1回、第2回との比較が困難であるため割愛した。

* 第5回の「平均」については、原典に記載の割合の算出結果が明らかにおかしく、不備と思われるが、記載の比率をそのまま表に埋めた。

* 四捨五入の関係で合計が必ずしも100%にならない。


出典: 『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』

 単行本の刊行までの「最短」期間は、「少なくとも本づくりに最低〇カ月はかける」と言い換えることができ、出版社の姿勢が試されるところだ。結果はわずか「1~3カ月」で刊行してしまう割合は、1994年で38.6%だったが、2001年には約5割(49.6%)に跳ね上がっている。

 『出版年鑑2016年版』(紹介記事はこちら)によれば、2001年の書籍の新刊点数は7.1万点。初めて7万点の大台を超えた。ちなみに1994年の新刊点数は5.4万点。2001年の点数は+1.7万点と増えているのに、実売金額は1994年の10,340億円に対して、2001年は10,032億円と逆に減っている。本づくりの期間が減ったが故に質の劣化を招き、実売が思うように伸びなかったと言えないだろうか。

 その後、わずか「1~3カ月」で刊行してしまう割合は、2005年 40.7%、2009年 44.9%、2016年 41.7%と波はあるものの数字は落ち着いてきているように見える。新刊点数も、2005年 8.1万点、2009年 8.1万点、2015年 8.0万点(2016年は未確認)と横ばいだ(『出版年鑑2016年版』 より)。

 しかし深刻なのは、実売金額。新刊点数は横ばいだが、実売金額は 2005年 9,879億円、2009年 9,138億円、2015年 7,936億円と落ち込みが止まらない(『出版年鑑2016年版』 より)。

 外部環境の影響もあるかも知れないが、内部環境にも変化があるようだ。次は、編集関係について読み解いていく。


■編集関係について

設問2.編集関係について

(1)編集者一人あたり、1年間に平均何点を仕上げますか。

shokyo04.jpg

* 第1回は自由回答に伴い単純比較が困難なため割愛
* 四捨五入の関係で合計が必ずしも100%にならない。


(3)編集作業を外注することがありますか。
shokyo05.jpg


(3)-3 外注する理由は何ですか。
(複数回答可)

 ① 期日を短縮するため ・・・ 2009年 66.3% → 2016年 57.4%
 ② 専門性が高いため ・・・ 2009年 39.8% → 2016年 46.2%
 ③ 費用を安く抑えるため ・・・ 2009年 34.8% → 2016年 21.5%
 ④ 人手不足 ・・・ 2009年 8.3% → 2016年 11.8%

* 回答対象社は、第4回(2009年)が181社、第5回(2016年)が195社
* 上位回答の順番は第4回、第5回とも変わらず
* 第1~3回は外注費用の高低、期日の長短のみを尋ねており比較できないため割愛した。


出典: 『2016年書籍の出版企画・製作等に関する実態調査(第5回)』

 編集者一人あたりの点数は、年間「5~9点」が一番多く、その傾向は第2~5回でいずれも変わらない。しかし本質を見極めるには「何点仕上げるか」の情報だけでは不足だ。

 「外注している」と「外注することがある」はいずれも、どの程度外注しているのかの頻度や量は不明である。少々荒っぽくこの2項目の比率を合計してみると、1994年の57.7%から2016年の84.4%に急増しており、外注利用が増えていることが明らかになる。

 むしろ、編集という本づくりの根幹の仕事とも言える業務を「外注しない」とした出版社が、1994年には37.0%だったにも関わらず、2016年には14.3%と半分以下となっていることに着目すべきかも知れない。

 1994年には4,487社あった出版社の数が、2015年には3,489社と約1,000社、2割以上減ってしまった(『出版年鑑2016年版』 より)ことと関係があるのか? 外注する理由の比率の変化が手掛かりになるかも知れない・・・

 理由の第1位の「期日短縮」と第3位の「費用を安く」が、2009年に対して2016年では比率が減少している。一方、第2位の「専門性高い」と第4位の「人手不足」は逆に増えている。

 もしかすると、編集者は本業の編集業務以外の仕事が増え、外注先もそれなりに専門性が高くなっていった結果、出版社が本業として保持すべき編集ノウハウや質のようなものが、外注し続けた結果として弱まってしまったのではないか?

 編集作業の外注増は、全て自社で本づくりを行うという信念を持った出版社が減ってしまったのか、それとも外注に依存し過ぎた結果、質の劣化を招いて売れなくなり、経営破綻してしまったのか・・・

 理由は定かではないが、本づくりの現場は1994年から2016年までの20年以上の年月をかけて、大きく様変わりしたことが推測できる。

つづきは こちら


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posted by 鳴海寿俊 at 22:28| Comment(0) | 出版社・著者(作り手) | 更新情報をチェックする