2017年03月30日

紙の本より電子版を安くする必要は無いんじゃないか?

 以前書いた記事で、紙の本は電子版に対して、3重の負担が余計にかかっていると述べた。

紙の本に対して読者が負っている 【3重の負担】
 1.購入するための 【お金】(電子版との価格差)
 2.整理するための 【時間】
 3.処分することに対する心理的な 【痛み(抵抗感)】

 1.の【お金】について以前は、紙代や印刷代に加えて物流費などの流通経費がカットできるのだから、紙より電子の方が安くて当然! と考えていた。

 実業家で慶應SFCの特別招聘教授でもある夏野剛氏は、「東洋経済ONLINE」の記事でこう述べている。

 まあ何にしろ、電子版が出てくれるのは便利なことですし、コミック誌、週刊誌に限らず書籍においても、日本の出版社がようやくこれだけ電子化に前向きに取り組むようになったのは非常にいいことだと思います。

 ただ一点、なぜ価格が従来の紙のものとほとんど一緒なのかというのが、さっぱりわからない。

 本というのは、だいたい売り上げの1割が著者に入り、2割が書店に入ります。配本とか、売れ残り回収のための代金も本の値段に入っていますから、(こういった作業の必要ない)電子版を売るときの値段は、ざっくり半分以下まで下げてもビジネスモデルが成り立つはずです。

 ところが、書店さんへの配慮とか、いろいろな「大人の事情」があって、電子化された書籍も紙の書籍とほぼ同じ価格で売っている。僕は、これはあまり歓迎するべきことではないと思っています。

 なぜなら、マーケットが広がらないからです。たとえばコミックの単行本は500円くらいですが、それと同じ価格で電子版を買わなきゃいけないとなると、紙の本を買わない人は電子版だって買わないですよね。

(出典)
 東洋経済ONLINE『電子書籍は紙の「半額以下」でないと無意味だ』(2015/7/23)

 以前はすんなりと「その通り」と同意していたのだが、最近私の考え方は少し変わってきた。

 冒頭述べた通り、紙の本に比べた電子版の優位性は、1.の【お金】(紙との価格差)以外にも、2.の書棚を整理する【時間】がかからないことのほか、3.の処分に対する心理的な【痛み(抵抗感)】がないという点が挙げられる。

 「出版社が書籍の電子化に踏み切れない理由とは?」の記事でも書いたが、規模の大きな出版社でない限り、電子版を出すことのハードルは読者が考えている以上に大きいことを知った今は

紙の本より電子版を安くする必要は無いんじゃないか?

という考えに変わってきたのである。夏野氏は「同じ価格で電子版を買わなきゃいけないとなると、紙の本を買わない人は電子版だって買わない」と危惧しているが、むしろ紙の本が500円だとしたら、電子版も同じ500円であるのが当然、というように読者の意識も変えていかなければならないように思うのである。なぜなら

書棚を整理する【時間】が不要となることで物理的な制約から解放され、結果的に購入した本を処分しなければならないという心理的な【痛み(抵抗感)】も感じずに済むというメリットが電子版にある

からである。紙よりも便利なら、電子の方が逆に高くてもいい! という考え方もできなくはないが、紙の出版物の物流コストが上がっている現状をふまえると、紙の本の値段は据え置き、紙よりもメリットがある電子は紙と同額とする方が自然ではないか・・・ という考え方に変わったのである。

 それでは「マーケットが広がらない」と夏野氏は述べるが、電子版を出す余力が中小出版社にない以上、しかるべきコストを価格に転嫁せざるを得ないのもやむを得ないのではないだろうか。

 その代わり、作り手である出版社に求めたいのは、刷って取次に搬入すれば入金されるから、とりあえず新刊を出す・・・ といった「新刊を出すことが目的」のような自転車操業から早く抜け出し、読者に読まれる価値の高い本を出せる体制に少しずつ改善して欲しい。

選ぶのは読者なのだから、紙と電子は
必ず両方で世に出して欲しい!


価値のある本なら、読者は見合う対価を払うはずだ。

紙か電子かという議論ではなく、中身の議論と価値向上に努めて欲しい・・・ 作り手の人たちには。


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2017年03月27日

電子が紙の本の販売を促進!出版市場再生の打開策とは?(2)

→→ つづき(はじめから読みたい方は こちら )

 紙+電子の出版市場が停滞しているのは、読書自体の時間が減っているからであり、読書以外にも使えるスマートフォンやタブレットの使用時間が減らない限り、(たとえ紙に電子を足しても)今の出版市場の規模の維持は難しいと 前回記事(1) で私の推論を述べた。

 ではスマートフォンにどれだけの時間とお金が費やされているのだろうか?

 スマートフォン視聴率の調査を行っている ニールセン  によれば、2016年4月時点で次のような結果となっている。

 ● スマートフォン利用者数: 5,496万人
 ● 1人あたり1日の平均利用時間: 2時間11分
 ● アプリ利用:80% / WEBブラウザ利用:20%


(出典)ニールセン調べ 2016/05/31 ニュースリリース  より
2016年4月スマートフォン視聴率情報Nielsen Mobile NetView[日本全国の8,000名(iOS、Android各4,000名)の調査協力モニターから取得するアクセスログ情報を元に作成]

 なんと2時間超! スマートフォンがなかった時代はこの時間がゼロだったことを考えると、全てではないにせよ、読書時間がスマートフォンに奪われたという推論にも合点がいくのではなかろうか。

 一方、お金は? というと、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF) による 2015年モバイルコンテンツ関連市場の発表データ  が参考になる。

MCF2015_graph01.jpg
(出典)一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)調べ
 2015年モバイルコンテンツ関連市場の発表データ

(注意)
「※鳴海の試算」はニールセン調べのスマートフォン利用者数5,496万人で除算して算出

 なんと、2015年のスマートフォンコンテンツ市場は
 1兆4,623億円。


 同年の紙の書籍・雑誌の市場規模1兆5,220億円(出版科学研究所調べ)に匹敵する規模である。スマートフォンコンテンツの中には「電子書籍」(コミック・雑誌含む)も入っているが、残念ながら占める割合は11%(1人あたり年間2,951円)と心もとない・・・

 ちなみに最大占有率66%の「ゲーム・ソーシャルゲーム等市場」は9,628億円。これは、オンラインゲーム、SNS等での課金コンテンツ、アバター、アイテム等とある。額こそ、1人あたり年間で17,518円程度だが、スマートフォン自体の購入費用や利用料金をふまえると、スマートフォンがなかった頃には、本の購入に充てられていたお金がスマートフォンに奪われてしまったのではないか・・・ という推論は容易だ。



 では、そろそろ締めくくりに入ろう。

 前回記事(1)もふまえて、ポイントを列挙すると以下の7点となる。

① 読書専用の電子書籍リーダーで電子書籍を読む割合は約1割(9.3%)
  (スマートフォンで読む割合が33.7%で一番多い)


 しかしながら・・・ スマートフォンコンテンツにおける電子書籍のウエイトは低く

② スマートフォンコンテンツにおける出費が一番多いのは66%を占めるゲーム・SNS
 (市場規模9,628億円)


③ スマートフォンの1日あたりの平均利用時間は2時間超

④ 電子書籍市場におけるコミックの比率は約8割
 (文字ものが約2割)


⑤ 電子が紙の本との相乗効果を生み、販売促進を担えるとの意見あり

 とは言え、コミック市場に関して言えば、紙+電子は横ばい

⑥ 電子コミックの伸びが紙のコミックの落ち込みをカバーしきれず
 (電子が紙の市場を奪っている可能性)


shukkaken_comic14_16graph01.jpg
(出典)出版科学研究所調べ
 2016年のコミック(紙+電子)市場を発表

 伸びしろは、①電子書籍リーダーによる読書と④文字ものの電子書籍。駆逐すべきはスマートフォンに費やす②お金と③時間ではないか・・・ という仮説が立つ。

鳴海が考える「出版市場再生の打開策」は

● 電子書籍リーダー(KindleやKoboなど)の更なる普及


 によって

● スマートフォンに費やす時間とお金を奪還


 スマートフォンがなかった時代の時のように、文字ものの読書時間を増やしてもらい

● 文字ものの電子書籍市場を拡大
 (電子書籍の伸びしろはコミックではなく、文字もの)

 電子の比率が高まれば、紙の落ち込みは更に激しくなると思われるが、その落ち込みをカバーすべく、相乗効果を最大化させることを業界一丸となって目指して欲しい! 成功すれば、紙+電子の出版市場自体は再拡大できるのではないだろうか。

 スマートフォンのゲーム・SNS市場9,628億円のうちの約半分(0.4兆円)でも、電子書籍が奪い返すことができれば・・・

今の出版市場(紙+電子)約1.6兆円を
約2.0兆円台に戻せるかもしれない!


 それには、ドイツの書店員が「tolino」でKindleに対抗するために、リアル書店で電子書籍リーダーを販売するという決断をしたのと同様の覚悟が必要かも知れない(関連記事は こちら )。

打開策は日本版「tolino」だ!
紙にこだわらずに電子 "も" 売ろう! リアル書店で!
そして、昔の読書風景を取り戻そう!




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タグ:出版市場
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2017年03月26日

電子が紙の本の販売を促進!果たして出版市場再生の打開策とは?(1)

 2016年の紙の出版市場は、雑誌が書籍を下回り、業界内外で大きな話題になったという。下記は『新文化』(2017/2/2)に掲載された、2015・16年の出版物販売金額の発表データ(出版科学研究所調べ)である。

shukkaken_2016data01.jpg

 2016年の紙は前年比96.6%で12年連続のマイナスとのことだが、電子を加えた出版物全体では99.4%とほぼ前年並みだ。楽観視できる数字ではないが、ここ最近は電子の本に対してポジティブに捉えらることが増えてきているように思う。

 コミックでは、出版各社ほぼ全店の新刊を電子化しているという。(中略)マンガアプリの広がりによりスマートフォンで電子コミックを読むことが当たり前となり、さらにはそれが紙版の販売を促進する役割をも担い始めている。

(出典) 『新文化』(2017/2/2)

 また『新文化』(17/2/16)には、『火花』で電子書籍事業が好調の文藝春秋・電子書籍編集部/吉永龍太部長のコメントが次のように紹介されている。

 10年前の07年と比べて自社の電子書籍売上げは68倍まで伸長。対外的な要因としてはキンドルストア、楽天コボなどの電子書店がオープンし環境が整ったこと、社内的には村上春樹、池井戸潤、司馬遼太郎といったベストセラー作家の発電子化、「週刊文春」、「Sports Graphic Number」といった看板雑誌の電子化、また電子書籍オリジナル作品も積極的に作っていることを挙げた。(中略)

「1つのものを(別チャネルで)どんどん売っていくこと」が紙との相乗効果を生んでいる という。 「紙のしがらみを電子に持ち込まないことが正しい」 と述べた。

 一方で 「電子書籍を始めると紙版の売上げが落ちるのでは」 という出版社の懸念も聞くという。だが、司馬作品の電子化後も紙版は毎年重版し売上げは変わらない事例をあげ 「紙は紙、電子は電子という流れはできているのではないか」 と読者が形態を選んで本を読んでいることを推量した。

(出典) 『新文化』(17/2/16)

 しかしこのまま、電子が紙の本の販売を促進し続けて、紙+電子の出版物市場は維持できるのだろうか? 電子の書籍に限定して、推論してみたい。

 以下のグラフは、 インプレス総合研究所 『電子書籍ビジネス調査報告書2016』  が発表した、電子書籍・電子雑誌の市場規模予測のグラフである。濃いブルーが書籍を示し、なんと2020年には3,000億円になると予測されている。

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(出典) インプレス総合研究所 『電子書籍ビジネス調査報告書2016』

 冒頭の出版科学研究所調べによれば、2016年の書籍の販売金額は、紙・書籍(7,370億円)に、電子コミック(1,460億円)と電子書籍(258億円)を加算すると9,088億円である。別統計の数値を参照することは荒っぽいものの、仮に2020年まで紙+電子の書籍市場が約9,000億円のまま維持できたとすれば、9,000億円から3,000億円を差し引く・・・ すると

2020年は
紙の書籍が約6,000億円に!?
書籍の3冊のうちの1冊が電子


という状況になるとも推測できる。ただ私はこの数字は楽観的過ぎると思うのである。理由は2つある。

 1つ目は、現時点において電子書籍と呼ばれる本のうちの約8割がコミックが占めていること(電子書籍1,584億円のうち、コミックが1,277億円)。

impress_2015shijyoukibo02.jpg
(出典) インプレス総合研究所 『電子書籍ビジネス調査報告書2016』

 そして2つ目は、電子書籍を読む際に利用されている端末の多くが読書専用の端末でないことである。以下のグラフは最もよく利用している端末の比率を示したグラフ( 「2016年電子書籍に関する利用実態調査」MMD研究所調べ )であるが、一番多いスマートフォン(33.7%)に続くのは、タブレット(29.6%)であり、読書専用の電子書籍リーダーはなんとわずか9.3%である。

densho_tanmatsu_graph01.jpg
(出典) 「2016年電子書籍に関する利用実態調査」MMD研究所調べ 

 巷でも言われていることだが、紙+電子の出版市場が停滞しているのは、読書自体の時間が減っているからであり、読書以外にも使えるスマートフォンやタブレットの使用時間が減らない限り、(たとえ紙に電子を足しても)今の出版市場の規模の維持は難しいと思う。

では、出版市場再生の打開策は?

→→ (2)につづく 



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タグ:出版市場
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